私たちの多くは、「危機感」が自分や他人の行動を修正するのに役立つと考えています。
受験勉強が辛くなったときなら、「そうやってサボっていたら、望むような人生は手に入らないぞ!」と、不幸な将来に危機感を抱くことで、自分に活を入れます。
会社などの組織でも、業績が悪化したり、競合他社との争いに負けそうになったりしたときには、「このままでは、年末のボーナスは出ないと思ってほしい」と、収入が減ることへの危機感を煽ることによって、スタッフのモチベーションを上げようとします。
そしていま、新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、外出の自粛要請に耳を貸さない人たちの行動を是正するために、「もっと危機感をもたなければ、ひどいことになるぞ!」との警告が毎日のように出されています。
たしかに、限られた時間で、対話型ではなく一方向のメディアを使って発信するメッセージとしては、これ以外に有効なものは見あたらないようにも思います。
ただ、拙著やこのブログをとおして、しあわせの実現のために「恐れや不安」を手放すことを提案してきた私としては、
「本当に、何かに恐怖を抱くことによってしか、私たちは行動を変えられないのか?」
という疑問が拭えないのです。
そこで今日は、あらためて「危機感」とは何かを見直すとともに、この禁断の果実を使うことなく最善の行動を選択する方法について書いてみようと思います。
もちろん、必死に状況を改善しようと努力する、政治家やメディアの伝え方に意義を唱えるつもりはまったくありません。そうではなく、私やあなたという一個人が、それをどのように受けとるかの可能性について考えたいのです。
まずは「危機感によって行動を修正する」というやり方が、どのようなメカニズムに基づくものかを確認しておきましょう。
この手法を使いたくなるときは、最初に例外なく、
「望ましくない行動」
があります。
学校や仕事なら、サボる、手を抜く、いい加減にやるなどがこれにあたります。今回の場合は、外出の自粛要請が出ているにも関わらず、感染の可能性がある場所に出かけてしまうことなどです。
次に私たちは、「望ましくない行動」をしてしまう原因を次のように分析します。
「その行動によってもたらされる未来を甘く見て油断したから」
だとすれば、
「いまある情報をもとに、できる限り恐怖を感じる未来を予測する」
ことが有効な解決策になりえます。
なぜならば、
「絶対にそうはなりたくない!」
と思った私たちは、現在の行動を改めないわけにはいかなくなるからです。
つまり、「危機感によって行動を修正する」とは、
「恐れや不安をもたらすイリュージョンに、自分が何をすべきか教えてもらうこと」
にほかならないのです。
たしかにその効果は絶大です。バックナンバー「仕事でミスしたときの妄想をどう消すか」で書いたように、私たちはたったひとつの小さなミスからでも「悲惨な人生の終わり」を連想できる生き物です。
ましてや、今回の新型コロナウイルスにおける「できる限り恐怖を感じる未来」とはすなわち、重篤もしくは苦しみながらの死です。ひとつ間違えばこれが現実になると確信した人が「望ましくない行動」をやめないはずはありません。
ただし、先に「禁断の果実」と書いたように、このやり方を採用した私たちは、いくつかの副作用のようなものを覚悟しなければなりません。
ひとつは、
「いったん抱いた恐怖を、自分で都合よくコントロールすることはできない」
というものです。
つい先日も、「紙がなくなる」というデマを受けて、店頭から一斉にティッシュやトイレットペーパーが姿を消しました。いわゆる買い占めです。その後も、外出の自粛要請が出されるたびに、マスクや食料品などの売り切れが続出しています。
数字や映像で感染の恐ろしさを伝え終わったニュース番組で、最後の最後に、キャスターが次のようにコメントします。
「いまは何かがなくなることはありません。どうか、冷静に対応してださい」
要は、
「新型コロナウイルスがもたらす未来への恐怖感を、ある行動には適用して、ある行動には適用しないようにする」
という、かなり高度な危機感の運用が求められているということです。
最近、繰り返し言われるようになった、
「こういう時期だから、正しい情報とフェイクニュースを見分けてほしい」
もまったく同様です。
ぜひ、「死」という究極の危機感をもった私たちが、そのように器用な「恐怖感の使い分け」ができるかを真摯に考えてみてほしいのです。
たったひとつの微かな気がかりがあるだけで、何をやっても楽しめないと感じてしまうのが私たちです。どんなものであっても、「恐れや不安」は人生全般を浸食するということです。
緊急事態だから背に腹は替えられないかもしれませんが、やはり危機感によって自分や他の人の行動を修正するやり方は、恐怖をコントロールできなくなるという意味で、劇薬のようなものだと私は考えます。
副作用のふたつめは、
「危機感を抱くと、自分と同じ強さの恐怖を感じることを、他の人に強要したくなる」
という、2人以上のグループや組織でかならず起こる現象です。
夫婦であれば、片方がもう片方の行動を見て「油断している」と感じれば、「あなたは(君は)このことの危険さを理解できていない。もっと危機感をもってほしい!」と批難するでしょう。
企業などでいわれる「危機感の共有」も、経営陣がもっている先行きへの恐怖と同じものを、スタッフ全員にも感じさせたいという願望にもとづく取り組みです。
その目的は、これまで見てきた恐怖のメカニズムを使って、家族や組織のメンバーに「同じ行動をとらせる」ことにあります。
当然ですが、ここにおいて何よりも重要なのは、
「それぞれがもつ恐怖感の度合いがピタッと揃っていること」
です。
だとすれば、まさに現在の私たちが目指すべき状態のようにも見えます。けれども実際には、たった数人の家族であってもそのような状況を創ることはまず不可能です。
76億個の違いと個性をもち、千差万別の環境の中で育ってきた私たちが、ある出来事に対して他の人とまったく同じ恐怖感をもつことなどありえないのです。
ところが、いったん危機感を抱いた私たちは、この事実を頑として認めようとはしません。その代わりに、
「自分と同じ恐怖を感じていない人を攻撃する」
という手段に打って出るのです。
すべては、そういう人たちによって、危機感の根拠である「恐怖の未来」が実現してしまうという、新たな「恐れや不安」によるものです。
このブログでも繰り返し書いてきたように、攻撃によって問題が根本的に解決することはありません。攻撃された側は自分の立場を守るために、ほぼ例外なく同じ攻撃で応戦するからです。
夫婦の場合なら、危機感が足りないと指摘された側は「お前(あなた)がビビりすぎているだけだ!」と反論するでしょう。経営陣の叱咤に対しても、スタッフは「そういう状況にしたのはアンタたちの責任じゃないか!」と言って開き直るでしょう。
どちらも、私たちがこれまでの人生で、何度も何度も体験し、目撃してきた光景です。
これによって、
「危機感を強くもつ側と、足りないと批難された側とは、大きく分離、分断される」
ことになります。
そもそものゴールは、家族や組織のメンバーに「同じ行動をとらせる」ことでした。けれども、恐怖の強要がもたらすのは、どんなときでも、拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』でいうところの「バラバラ意識」による分裂です。
それでも、強引に全員の行動を一致させようとするならば、厳しい罰則を設けて、従わない人にさらなる恐怖を感じてもらうしかありません。まさにこのやり方の最終地点といってもいいでしょう。
もちろん、私はそのような結末は見たくありません。その代わりに、あらためて自分自身に次のことを問いかけたいと思います。
「私は本当に、危機感なしには現状に対して最善の行動を選択できないのか?」
「恐れや不安を抱かなければ、この状況に対応することはできないのか?」
もちろん、答えは「NO!」です。
いま、自分が感染しないための行動は何か。もし感染したとしても、他の人にそれを広げない行動は何か。すでに専門家による多くの指針も発表されています。どれもいたって単純かつ明解なものばかりです。
家族や仕事の都合で、完璧には遵守できないケースが生じたとしても、その際の対策くらいは自分でしっかりと発案できると思います。
どう考えても、恐怖に背中を押してもらったり、何かを教えてもらったりする必要はどこにもないのです。
さらに次のことも自問してみます。
「先行きが読めない現実を受け入れ、自分と見解の違う人を攻撃することなく、感染した人を危機感がないと批難することもなく、恐怖にエネルギーを奪われることもなく、将来に失望することもなく、何があっても冷静に事態を見極め、いま何を学ぶべきかを理解するためにはどうすればいいか?」
やはり、「恐れや不安」のない「平安な心」を保ち、目の前の事柄を凝視しながら、自分と他の人たちを信頼して、「ひとつ意識」で乗り切るしかないと思うのです。
Photo by Satoshi Otsuka.
超入門 グッドバイブス勉強会 ③「コミュニケーション嫌いを克服する!」
今回はZOOMオンラインのみの開催とします。
どれだけ他人との関わりを最小限にして暮らしたいと望んだとしても、結局のところ、私たちはけっしてひとりでは生きていけません。
にもかかわらず、私たちの多くは、他人とのあいだに強固な心の壁を築くことによって、コミュニケーションに伴うストレスや恐怖を回避しようとします。
もちろんそれは、仕事の現場に限ったことではありません。本来なら、心を開いて対話できるはずの家族に対しても、日々、ザラつきや違和感を抱えながら、距離を保って生活している人が少なくないのです。
今回のグッドバイブス勉強会では、このような状況を改善させ、あなたのコミュニケーション嫌いを克服するための具体的な方法をお伝えします。
私たちが日々、行っているのは、コミュニケーションではなく、
「コミュニケーションのフリをした攻撃の応酬」
です。
そして、あらゆる攻撃の原因は「恐れや不安」にあります。
つまり、コミュニケーションを改善させるために必要なのは、話術でも読心術でもアンガーマネージメントでもなく、自分と相手の「恐れや不安」を取り除くことなのです。
ではどうすればそれができるのか?
グッドバイブスにはその答えがあります。
自宅で家族と過ごす時間が多くなるいま、対面ではなくオンラインで仕事の打ち合わせをする機会が増えるいま、まさにコミュニケーションのあり方が問われていると思います。
これまでの人間関係を大きく見直すためにも、ぜひ参加してみてください。
コミュニケーションを変え、人生を変える方法を、かならずもち帰っていただけます!
※ 過去2回の「超入門 グッドバイブス勉強会」全編を収録したビデオを販売しています。
「Good Vibes Video Library」
【日時】4月11日(土曜日) 17時〜19時20分
【場所】ZOOMオンライン
【料金】2,200円(税込)
【申込み】https://nokiba.doorkeeper.jp/events/105492
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