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「仕事でミスした」ときの妄想をどう消すか

イリュージョンとは、次のような設定で、あなたによって制作される一本のホラー映画のようなものです。

・ 主人公はあなた自身である。
・ 舞台はまさにあなたの人生そのものである。
・ ラストには、あなたが想定しうるかぎりの不幸が訪れる。

もちろん、すべては頭で創り出す幻影です。けれども、ディテールがあまりにリアルなために、あなたはそれがあたかも現実であるかのように錯覚して「恐れや不安」を抱きます。

問題の大小にかかわらず、私たちが悩んだり落ち込んだり絶望したりしながら「平安な心」を失う原因は、ほぼ例外なくイリュージョンの創造にあるのです。

この状態に陥らないための方法は、基本的にひとつしかありません。望ましくないと感じる出来事に遭遇したときに、

「自分が主演のホラー映画を創るのをやめる」

ことです。

ただ、いつでもこの取り組みが成功するとはかぎりません。起こった出来事に動揺しているうちに、気がつけばすっかり絶叫必須のホラー映画を完成させていたということもめずらしくありません。

そこで今日は、完全にできあがってしまったイリュージョンを解体する方法について書いてみようと思います。

まずは、シチューエーションをひとつ決めておきましょう。私のもとに数多く寄せられる相談のひとつ、

「会社で大きなミスをしてしまった」

がいいと思います。

この数日間、あなたは自分のやらかしたことについてあれこれと考え続け、頭の中に恐ろしい映像をいくつも創り出してきました。すでに、妄想を止めるなどという段階ではありません。いわゆるホラー映画がクランクアップした状態です。

でも安心してください。相手は実体のないイリュージョンです。しっかりと手順を踏めば、あなたはそれが実際には「無いもの」であることに気づけます。

ただし、この時点では漠然と幻影を消そうとがんばってもうまくいきません。レゴで作ったお城をバラすときのように、ブロックをひとつずつ崩していく必要があるのです。

具体的には、

「自分の恐れや不安を詳細に見に行く」

ことにトライします。

すでにあなたは数々の苦悩を抱え、かなりのエネルギーを消費しています。そんな状態で、わざわざ恐い映像を見るのはキツいと感じるでしょう。けれども、最後の気力を振りしぼってやってみてください。

1枚の紙を用意して、これから自問する答えを書いていきます。もし、信頼できる家族や友人、恋人などがいれば、彼や彼女に同じ質問をしてもらいながら答えていってもかまいません。あなたがうまくいくと感じたほうを選んでください。

最初の質問です。

① 会社で大きなミスをしたことに、どんな「恐れや不安」を感じているのか?

おそらくあなたは、2つか3つの答えを挙げるでしょう。

「会社に多大な損害を与えるかもしれない」
「同僚によけいな迷惑をかけるかもしれない」

そしてこれらは、あなたがひとりで思い悩んでいたときに、繰り返し頭に浮かんでいた事柄であるはずです。

すでにあなたは、何度もそのような想像を振り払おうとしたはずです。でも、結果として消し去ることはできませんでした。

なぜならば、いま挙げた答えは、あなたの「恐れや不安」の表層でしかないからです。それは、映画全体でいえば、ただのファーストシーンにすぎません。

ここから、自分の頭の中にあるイリュージョンの深い霧をかき分けながら、あなたを恐がらせているものの正体を探る旅が始まります。

2つめの質問を自分に投げかけます。

② それによって、何が起こることが恐いのか?

「会社に多大な損害を与えること」「同僚によけいな迷惑をかけること」によって、これからあなたがどのような事態に巻き込まれると思うかを書いてください。

ひとつ答えが出たら、すかさず同じ質問「それによって、何が起こることが恐いのですか?」を繰り返して、これ以上はないと感じるところまで続けます。

「風が吹けば桶屋が儲かる」のように、次々と「それによって起こること」が連なっていくはずです。少し長くなりますが、行き着くところまで想像してみます。

「会社に多大な損害を与えるかもしれない」→「自分の評価が大幅に下がるだろう」→「お前は次の課長候補だと言われていたが、それも白紙撤回になるだろう」→「現在の役職も解かれかねない」→「そうなれば、いまの部下が自分の上司になるのか」→「仕事の内容も単純なものになってしまう」→「モチベーションも下がるだろうな」→「退職したくなるのも時間の問題か」→「そのとき家族は何と言うだろう」→「次の職が見つからなかったらどうなる」→「息子の学費は払えるのか」→「家族そろって路頭に迷うのか」→「いや、その前に奥さんから三行半を渡されるに違いない」→「この家をひとりで出て行くのか」→「こうして自分は孤独に人生を終えるのだろう」→The End.

最初の質問では気づかなかった、さまざまなシーンが紙に書かれていくはずです。中には直視することに強い抵抗を感じる場面もあるでしょう。

すでに書いたように、それがどれだけ恐い映像だとしても、実体のないただのホラー映画です。

目を背けずにラストシーンまで進んで行けば、イリュージョンの最深部に居座っている、

「悲惨すぎる人生の終わり」

を見つけられます。

ここまで来れば、「ミスをしてしまった」から湧き起こる、いくつもの嫌な妄想を手放せなかった理由も判明します。

あなたに「恐れや不安」を抱かせたのは、目の前の出来事そのものではなく、そこから喚起される「人生の終わり」ではなかったでしょうか。

これこそが、あらゆるイリュージョンの奥に隠れているラスボスです。そいつを見つけられたら、ぜひこう言い放ってください。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」

あとは、いま紙に書いた箇条書きを逆にたどりながら、

③ 本当にこの件が、そのようなひどい事態に発展するのか?

について、ひとつずつ吟味していきます。

「そのまま自分は孤独に人生を終えるのだろうか」→「そんなはずはない!」
「この家をひとりで出て行くのか」→「そんなはずはない!」

よく考えてみれば「そんなはずはない!」とわかったものを、リストから消していきます。

ある場所から答えは微妙に変わってくるはずです。

「いや、その前に奥さんから三行半を渡されるに違いない」→「ありえなくはないが、その可能性はかなり低いだろう」
「現在の役職も解かれかねない」→「ありえるけれど、まだ絶対にそうと決まったわけではない」

100パーセント事実だと断言できないものは、すべて消してかまいません。そうなる可能性があったとしても、現実になってからでなければ対処のしようがないからです。それがいつなのかすらわかりません。現時点ではもちろん消去です!

このあたりであなたは、あることに気づき始めているはずです。自分で創造したストーリーを逆行しながら、事実でないものを消していくこのプロセスは、

「朝、夢から目覚めて現実に戻る」

ときの感じに似ていないでしょうか。

だとすれば当然、最後に見えるのは紛れもない事実だけです。

「会社に多大な損害を与えることだけは確定している」

ここで落ち込む必要はありません。なぜならば、すでに起こってしまった現実ならば、それを消す努力も変える努力もしなくていいからです。「覆水を盆に返せ!」と、絶対に不可能なことを求める人はいないのです。

いまのあなたは、ただ次の行動を具体的にイメージすればいいだけです。

「私のミスによる損害を最小限に抑えるために、いま何をすればいいか?」
「二度とこのようなミスを起こさないために、いま何をすればいいか?」

悩むことでエネルギーを消耗する代わりに、この1点だけにフォーカスしてください。想起されたアクションをひとつずつ実行していけば、数日後、数週間後にはすべての問題はかならず解決しています。

途中で心が折れそうになったら、次のことを思い出してください。

「この出来事が自分の人生に何をもたらすか、私は何も知らない!」

あなたの出世を決める上司は、あなた以上にこの手のミスをやらかしてきた経験があるからこそ、その地位にいるのではないでしょうか。だとしたら彼は、あなたが今回の件にどう対処するかを楽しみに見ているかもしれません。

けっして気落ちせず、同僚に心を開いて彼らの助けも借りながら、もくもくと事後処理にあたるあなたのその姿が、まさに課長昇進の決め手になる可能性もゼロではないのです。

すっかり使い古された、「雨降って地固まる」や「災い転じて福と為す」といった故事の意味を、あらためて考えてみるのもいいでしょう。

バックナンバー「無いものは傷つけないと確信して現実を見る」で書いた、

現実ならなんとかなる。
無いものは私を傷つけない。

もぜひ、思い出してください。

Photo by Satoshi Otsuka.