考えずに、凝視して、傾聴して、感じよう!

バンクナンバー「無いものは傷つけないと確信して現実を見る」で書いたとおり、グッドバイブスのメッセージは次の2行に集約できます。

現実ならなんとかなる。
無いものは私を傷つけない。

いまあなたを悩ませている何かが、自分の頭で創り出した幻影なら、そもそもこの世に存在しないので恐がる必要はない。イリュージョンを振り払ったときに見えてくる現実のほうは、例外なくあなたに対処できるものだから心配しなくていい。

そんな意味をもつこの言葉は、日々の行動として次のように表すこともできます。

「Don’t Think! Look, Listen and Feel!」
(考えずに、凝視して、傾聴して、感じよう!)

今日は、グッドバイブスの基本の型ともいえるこの一文が、私たちにどのような変化をもたらしてくれるかについて書いてみようと思います。

私たちはいつも、間違いや危険を犯さないために、ある行動指針をもって暮らしています。

「まずはよく考えて、結論が出たら動け!」

という教えです。

ここからはさらに、次のような方針が導き出されます。

「予定をしっかり立ててから動き出す」(計画)
「出来事や他人の言動に、自分なりの意味をつけたうえで対処する」(意味づけ)

一見、上記の2つに共通点はないように見えますが、実はどちらも「まずはよく考えて、結論が出たら動け!」を実践しているだけです。

前者の「計画」とは、「将来に何をすれば、自分にとってもっとも有意義な時間になるか?」をあらかじめ「考えて」おく行為です。

後者の「意味づけ」も、対処に先がけて「これは自分にとって、どのような影響をもたらす出来事や発言か?」を「考えて」いるという意味で、その目的は計画と何ら変わりありません。

注目すべきは、どちらも、

「実際に行動する前に、頭の中で判断が終わっている」

という点です。

これをグッドバイブスの視点から言い換えると、次のようになります。

「現実の行動とは別の、イリュージョンを創り出している」

当然、このイリュージョンもまた私たちに「恐れや不安」と苦悩をもたらします。

「計画」の場合なら、「明日の何時にこれを気持ちよく行っている自分」「何月何日までにこれを完了させている自分」などの期待がイリュージョンです。

たとえば週末の金曜日、あなたは休日を有意義に過ごすために「明日はずいぶんと溜めてしまった本を読もう!」と軽い計画を立てたとします。ところが、その楽しみな土曜日の朝、家族が「買い物に連れて行ってほしい」と言い出します。

この瞬間、

「あらかじめ考えていた期待と、それとはまるで違う現実」

という葛藤が生まれ、そのギャップにあなたは悩まされます。

「意味づけ」の場合なら、「この出来事に自分は苦しめられるに違いない」「この人は気難しくて、話のわからない人に違いない」という判断や解釈そのものがイリュージョンです。

こちらは、あなたが考えたとおりの、

「もう、どうにも変えることができない望ましくない現実」

が創り出され、その扱いの難しさに悩まされることになります。

「計画」や「意味づけ」によって生じるこれらの苦悩から抜け出すためには、「あらかじめ考えておく」ことの正体を暴いておかなければなりません。

考えながらあなたは、

「自分の正しさによって、未来の行動を守ろうとしている」

のです。

ところが、あなたの頼りにする「自分の正しさ」は、すべて過去というイリュージョンからインプットされたものです。

それはたとえば、以前にものすごくうまくいったやり方であったり、反対にとてつもなく痛い目に遭った経験からの教訓であったりします。

あるいは、心から尊敬する両親や祖父母、教師、部活の監督、上司などから教えてもらった何かかもしれません。深く感動した書籍や映画、著名人の談話なども、あなたの正しさを構成する大切なピースになっているでしょう。

とても残念なことに、あらゆる過去はまったく同じ形で「いまここ」に現れることはありません。見たことも聞いたこともない新しい現実に対しては、多くの場合、過去というイリュージョンから得た正しさは役に立たないということです。

そればかりか、「自分の正しさ」をもとに考え出した「計画」や「意味づけ」が、現実と葛藤したり、現実に負のベールをかけたりしながら、あなたに苦悩をもたらしているとしたらどうでしょう。

「動く前に考えておく」ことが、本当にあなたを守っているといえるでしょうか。

イリュージョンが現実に取って代わるなどということは絶対にありえません。「いや、それでもこうあるべき!」と、どれだけがんばったとしても、「本を読みたい日に家族を買い物に連れて行く」という現実は変えられないのです。

であるならば、あえて苦悩の道を行くよりも、潔く、

「自分の正しさを手放す!」

ほうが、はるかに賢い選択だと私は考えます。

それはすなわち、

「現実に出会う前に、筋書きを考えておくのをやめる」(Don’t Think!)

ということです。

予想や先読みをいっさい手放し、能動的であることをやめ、その代わりに、現実に起きていることを受け身の姿勢で観察します。

「凝視して、傾聴する」(Look! Listen!)

休日の朝に目を覚ましたら、これから何が起こるかをただ「凝視」してください。あなたの中にはもう、「何がしあわせな休日の過ごし方か?」といった正しさはありません。

職場で誰かと話すときは、相手の言葉をひたすら「傾聴」してください。これだけであなたは、「彼や彼女がどんな人格のもち主で、心の中で何を企んでいるか?」を先読みせずにすみます。

つまり、考えることを手放したあなたはいま、

「無限の可能性を手にした、完全に自由な状態」

にいるということです。

そしてこれこそが、出来事であれ人であれ、すべてをありのままに見られる、グッドバイブスの基本の構えです。

これまでのあなたは、何かが起こる前にどう動くかを「考えて」いました。でもいまは、凝視して傾聴することによって、現実がその答えを教えてくれます。

「これに対して、自分が何をすればいいかを感じよう!」(Feel!)

どんなときでも現実が先手で、あなたの行動や判断が後手です。ボクシングや空手でいうならば、こちらから先にパンチを繰り出すのではなく、相手の右ストレートに合わせてカウンターを放つ感覚です。

「それって成り行きまかせってこと?」と思うかもしれません。あるいは、「流されるまま」の無能で消極的な行いに感じるかもしれません。

事実はまったく違います。サーファーもヨット乗りも、基本的には波や風まかせです。自分の思いどおりにいい波やいい風を呼び寄せることはできません。

けれども、世界チャンピオン級に腕のいい選手は、そのときやって来た波を誰よりも華麗に乗りこなし、そのとき吹いた風から最大の推進力を得ます。

目の前に訪れた現実を、どのような行動で迎え、どのような結末に導くかは、いつでも私たちの意志にかかっているということです。

その可能性を勝手に狭めてしまわないために、考えることをやめてひたすら現実を見に行くのです。

「Don’t Think! Look, Listen and Feel!」
(考えずに、凝視して、傾聴して、感じよう!)

とは、自分に訪れた風や波をできるだけ正確に捉え、勝手に憂うこともなく、流れに逆らわずに「いまここ」で最善を尽くすことだと私は考えます。

Photo by Satoshi Otsuka.