「思考」と「意識」で閃く答えはまるで違う

このブログにたびたび登場する「イリュージョン」とは、私たちが頭の中で創り出す幻想です。それは「意味づけ」や過去の後悔、未来の予測など、

「何かを考える」

こと、すなわち「思考」によって生まれます。

そしてこの幻想は、「これ以上よくないことを思い浮かべるのはやめよう!」と考えることではけっして止められません。

なぜならば、

「私たちは、一度にひとつのことしか考えられない」

からです。

少しややこしいですが、シングルタスクである思考では、自分がいま何を考えているかをリアルタイムで認識できないうえに、考えている最中には「ストップ!」と考えることもできないのです。

そこで、私はこのブログやセミナーなどで、

意識を使ってよくない思考を止める方法

を紹介してきました。

ちなみに、拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』では「意識」を、自分の考えを見張れる「大きな自分」と表現していました。両者はまったく同じものです。

実は意識には、これだけでなく、思考からは絶対に出てこない画期的なアイデアや問題解決の方法を閃くという、とてもありがたい機能があります。

今日は、この目的で意識を使うための、簡単な練習方法について書いてみようと思います。『燃えよドラゴン』の名ゼリフ、「Don’t think! Feel.」にも相通ずるメソッドです(笑)。

まずは、思考ではなく意識を発揮しているモードが、どのような感覚なのかを確認しておきましょう。人によって異なりますが、次の3つの中に「これか!」と感じられるものがあるはずです。

まずは、もっともオーソドックスなやり方です。

① 静かな部屋でイスに座って、「これから自分が何を考え始めるか?」を見張る。

ゆっくりと呼吸しながら、頭の上のほうに意識がある様子をイメージしておきます。背もたれに寄りかかってリラックスしてかまいません。ただし、うつむいてはダメです。真正面よりやや上を向いてください。

そのまま目を閉じて、これから頭の中にどんな考えが浮かぶかを見張ります。何も出てこなくても、焦らずに辛抱強く待ちましょう。数分ほどして思考がおしゃべりを始めたら、その内容を意識で聞いてみてください。

最初にイメージした意識の場所に、少し圧力がかかったような感じがするはずです。ジーンとシビれるような感覚かもしれません。

それが、意識を使っている状態です。

何度かトライしてもよくわからなければ、次の方法もおすすめです。

② 机の上にあるひとつのモノを、「これは何だ!」と凝視する。

何でもいいので、机の上に置かれているモノからひとつを選んでください。次に、「私はこれについて、本当のことを何も知らない」と自分に言い聞かせます。

見たことも聞いたこともない未知の何かであれば、あなたは正体を知りたいと思うでしょう。その気持ちを強くもちながら、先に選んだモノを「これは何?」と凝視してください。

ふだんよりも目を大きく開けて見つめるのがポイントです。できるだけ対象について判断しようとせずに、「もっと知りたい!」と思いながら見ていてください。

次第に、頭の上のほうが活性化してきたように感じないでしょうか。①と同じ「ジーン」がやってくることもあります。

これもまた、意識を使っている状態です。

「まだわからない!」という場合は、最後の手段です(笑)。

③ 初詣でお参りするときのように、願いごとを頭でつぶやいてみる。

なぜそうなるかはよくわかりませんが、真剣にお参りをするとき、私たちは自然と意識モードに入ります。この仕組みを利用して意識の場所を見つけましょう。

近くに神社やお寺があれば、実際に行ってみるのもいいでしょう。なければ、自宅でもかまいません。初詣とまったく同じように、目を閉じ、手を合わせて、できるだけ本気で願をかけてみてください。

「今年も家族みんなが健康で、しあわせでありますように!」

いま、あなたが頭でしゃべった文言を、リアルタイムに聞いている自分がいないでしょうか。上記の願かけの内容を一言一句、逃すことなく認識している自分です。

先に書いたように、思考はシングルタスクです。もし、願いごとを考えながら、同時にその中身を眺められたとしたら、あなたは意識を発揮できています。このときの状態がふだんとどう違うかを覚えておいてください。

なんとなくでも、「これが意識かな?」と思えたら実践編です。さっそく、意識でアイデアを閃く練習をしてみましょう。

家族や友人など、親しい人をひとり選んでください。もうすぐその人の誕生日がやって来るとします。あなたは彼や彼女に何をプレゼントするでしょうか。

最初は、いつもどおり「思考」で考えてみましょう。相手はあなたの大切な人です。できるだけ真面目に思案して、答えが出たらメモしておいてください。

次に、先に取得した「意識モード」になって、

「あの人に贈るプレゼントは何がいいですか?」

と「意識」の部分にたずねてみてください。

こちらは思考を使う場合と違って、やや時間がかかるはずです。しばらくは何も浮かばない状態が続くでしょう。我慢できずに考え始めてしまったら、いったんリセットして意識に質問するところからやりなおします。

とにかく、頭の上のほうにある意識から、何かが降ってくるのをひたすら待っていてください。5分くらいはザラです。あきらめずに、根気よく続けましょう(笑)。

意識からの答えは、思考と違って文章の形では出てきません。映像のようなものが見えたら、絶好のチャンスです。その絵をヒントに、相手に贈るプレゼントをイメージしてみてください。

答えが出たら、最初に行った思考の場合と比べてください。次のような傾向の違いがあれば、このトライは大成功です。

思考の答え:躊躇するほど高価なものや、購入に手間がかかるものは選ばない。相手が喜ぶかどうか怪しいものは選ばない。驚きは少ないが、大きくは外さないものを選ぶ。なんとなく賢い選択と思えるものを選ぶ。

意識の答え:それなりに高価で、購入の手間もかかりそうなものを選んでしまうことがある。喜んでもらえるかどうかなど、相手からの評価を気にしないで選ぶ。贈るのが楽しみなものを選ぶ。愛が感じられるものを選ぶ。

思考から出てきた答えは、基本的に「優等生」です。選んだ根拠がはっきりしていて、損得勘定もしっかり考慮されていて、リスクも最小限に抑えられています。「理にかなった安全な回答」といってもいいでしょう。

これに対して、もう一方の意識が出した答えは「暴れん坊」です。いざやるとなったら、自分が苦労してしまいそうなものや、一見、実現するのは不可能に思えるものを平気で出してきます。こちらは完全に「理の外の回答」です。

以前に、あるワークショップでこれと同じお題にトライしてもらったところ、ひとりの受講生がとても興味深い結果を出してくれました。このときは、誕生日プレゼントではなく、「結婚記念日に奥さんに贈るもの」だったと思います。

最初の思考からの答えは「妻をキャッツ・シアターに連れて行く」でした。その理由は「彼女が以前からミュージカルが好きだったから」だそうです。

次に私は、今話と同様に「意識を使ってみてください」とお願いしました。

彼はしばらくのあいだ「出ないです」を繰り返したあと、「あっ!!!」と声を上げたかと思うと、まさにミラクルな回答を出してくれたのです。

それは次のような、本当に素敵なプレゼントでした。

「いま水着が見えました。これは新婚旅行で妻が着ていたものです。プーケットに行ったんですよ。そうか! 結婚記念日には、ふたりでもう一度、あそこを訪れようと思います!」

思考は何よりも費用や手間ひまを気にします。都内のキャッツ・シアターというのは、まさにお手ごろで安全な選択です。奥さんの好みもしっかり押さえています。

けれども、意識が出してくるのは、いつでも損得やリスクを超越したベストアンサーです。それは多くの場合、「恐れや不安の選択」の真逆にある「愛のある選択」でもあります。

どちらのプレゼントが奥さんにとって、驚きと感動をもたらすものであったかは本人に聞いてみなければわかりません。「バカじゃないの!」とあきれられたかもしれません(笑)。

でも、この答えを聞いたワークショップの参加者すべてが、「おお!」と唸って、なんともいえない温かい気持ちになったのも事実です。

「うん、わるくないかも」と思ったら、企画立案やビジネスプラン、原稿の執筆からプレゼン資料の作成まで、あらゆる場面で活躍してくれる「意識」の閃きに、ぜひチャレンジしてみてください。

Photo by Satoshi Otsuka.