分離しなければ緊張から完全に解き放たれる

信じられないかもしれませんが、この15年ほどのあいだ、私は「緊張」というものをしたことがありません。

その間、1000人を超える聴衆の前での講演や生演奏、初対面の著名人を集めたパネルディスカッションのファシリテーター、NHK BSのテレビ番組のコメンテーター、米国IT企業の超大物CEOのインタビューなど、シビれそうな場面を数多く経験してきました。

けれども、ただの一度も緊張したことはありません。理由はとても単純です。どんな状況でも拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』で書いた「いい感じ」、すなわち「平安な心」でいればいいことがわかったからです。

というわけで、今日は「いい感じ」の応用例のひとつでもある、「どんなときでも緊張から解き放たれる方法」について書いてみたいと思います。

ひと言でいえば、私たちにとっての緊張とは「何らかの恐怖を感じている状態」です。緊張から解放されるためには、何を置いてもまず、

「いま自分はどんな恐怖を抱いているのか?」

を知る必要があります。

そのための絶好の機会はほかでもない、あなたが次に緊張した瞬間です。「あ、いま自分は緊張している!」と感じた瞬間に次の質問をしてください。

A:私は何が起こることを恐がっているのだろう?
B:私は何が起こらないことを恐がっているのだろう?

結果としてどちらも同じことを聞いているのですが、あえて2つの形で自問するところがポイントです。

Aはすぐにイメージできるはずです。誰もが絶対に避けたいと思っている「失敗」です。そこで、本番を迎える前に「失敗したらどうしよう」という不安を手放すために、次の2つのことを心がけるようにします。

① 物理的な不安材料をすべて取り除いておく
② 本番を頭でシミュレーションするのをやめる

①はパソコンの動作チェックやマイクの調整などのいわゆる「セッティング」です。リハーサルや準備の時間には、とにかくこれを完璧にやることにこだわります。リモコンが動かない、Wi-Fiを拾わないなどの不安材料を1ミリも残さないよう、綿密にやってください。

②は私たちが不安のあまりついやってしまう、スライドを見直す、原稿に目をとおす、しゃべる文言を復唱するなどの「本番を頭でなぞる行為」を封印するということです。

ふだんからイメージトレーニングをしているアスリートならともかく、不慣れな私たちが行うシミュレーションは、間違いなく失敗する映像を頭に描き出します。

想像や空想は「意味づけ」となり、それが「恐れや不安」を生み出すという、拙著やこのブログでおなじみのメカニズムです。やりたくなる気持ちを必死に抑えて、本番直前までまったく関係のないことに時間を費やしてください。

Aよりも意識に上がりにくいのが、Bの「私は何が起こらないことを恐がっているのだろう?」の答えです。ぜひ、心の奥底に次のような「願望」が潜んでいないかを厳しくチェックしてください。

・ 会場に「コイツには負けなくない」とライバル心を抱いている人がいる。
・ 会場に「この人だけには評価されたい」と思う特別な人がいる。
・ 参加者全員に「この人はただ者じゃない」と思われたい。
・ ここで高評価を得て、自分の人生を好転させたい。

すべては「我欲」です。これが実現しないことに恐れを抱いている限り、あなたが完全に緊張から解放されることはありません。

そこで、本番が始まった直後に、ぜひ次のことをやってください。

③ すべての参加者をゆっくりと見渡しながら、心の中で「自分の話を聴きに来てくれて本当にありがとう!」と感謝の気持ちを述べる。

これによってあなたは聴衆と「ひとつ」になります。

「我欲」を抱いているあなたにとっての聴衆は、自分の失敗をあざ笑うかもしれない「敵」であり、自分の将来を決める厳しい「評価者」であり、自分を目立たせるための「背景」でしかありませんでした。

このとき、あなたと聴衆は完全に「分離」しています。大勢の人の中でポツンと孤立した自分。まさに孤軍奮闘の状況があなたに恐怖を抱かせ、緊張をもたらしていました。そのような世界を一変させる魔法の言葉が「ありがとう!」なのです。

あらゆる「我欲」は「自我」によって生まれます。そもそも「自我」がなければ、私たちが緊張することなどあり得ません。ぜひ、バックナンバー「つながりと広がりの意識で自我の力を弱める」も参考にしてみてください。

最後に、あらゆる緊張から解放されるためにもっとも効果のある言葉をあなたに贈りたいと思います。

「人生に無駄なことなどひとつもない。だから失敗という概念も存在しない」

自分の思いどおりにならなかったことに「失敗」という「意味づけ」をしなければ、すべての結果があなたにとってかけがいのないプロセスに変わります。このことを本気で確信できれば、緊張したくてもできないあなたが現れるはずです。

※ 本日の写真は、アーティストのSatoRichmanさんと、イタリア人イラストレーターのビオレッティ・アレッサンドロさんの愉快なライブペイントで描かれた絵です。記事の内容にとてもマッチしていたので、使わせていただきました。