不満や不便を解決する仕事が企画を生み出す

パナマとコロンビアの国境周辺には、21世紀の今日でも密林と湿地だらけで道路もない空白地帯があるそうです。先日、「この危険区域を越えて米国を目指す移民が増えている」というニュースを見て、初めて「ダリエンギャップ」と呼ばれる地峡の存在を知りました。

移民問題の深刻さはもちろんですが、過酷なジャングルの映像を目にしながら、私は真っ先にこんなことを考えていました。

「道路を敷設するという仕事は、なんと尊いのだろう!」

私は毎日、いくつかの道路を歩いていますが、道路があるのがあまりにあたりまえ過ぎて、これまでその仕事の価値を気に留めたことはありませんでした。けれども、ダリエンギャップにおいては、道路のあるなしが生命に関わる大問題です。

私にとってこの報道は、他の人のしてくれた仕事なしでは1日たりとも生きられないことをあらためて痛感するとともに、私たちの仕事がこの世界のしあわせに大きく関わっていることを再認識する機会となりました。

そこで今日は、拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』にも登場する「世界は仕事でできている」という発想を、自分の仕事にどう活かせるかについて書いてみたいと思います。

私たちは日々、駅や空港、ホテル、デパート、ホール、劇場、ショッピングモール、レストラン、カフェ、商店など、大小さまざまな施設を利用しています。

もしそこで、不満に思うことや、不便に感じることを体験したら、おそらく「なんだよ、この○○は。しっかりしてくれよ!」と文句を言いたくなることでしょう。

でも、少しのあいだイラッとする気持ちを抑えて、ぜひ次のことをイメージしてみてください。

「この施設に、あとどんな仕事が加われば、私の不満は解消されるだろう?」

あまり清潔でないと感じるなら「清掃」や「クリーニング」といった仕事が必要です。スタッフの対応に問題があるなら「接客の教育サービス」かもしれません。内装や家具がイマイチなら「空間デザイナー」や「インテリアコーディネーター」、通路が混雑しているなら「建築家」や「施工業者」などが思い浮かぶでしょう。

私はこの、

「不足しているものを具体的な仕事に置き換える作業こそが企画である」

と考えています。

「企画」と聞くと、つい「斬新なアイデア」や「それまで見たこともない驚きと感動」などをイメージしがちです。けれども、そのようなホームラン級の発想がいつでも降りてくるわけではありません。無理やり出そうとすれば、発想する人の自己満足や空回りで終わるのが関の山です。

そこで、もっとシンプルに「これにどんな仕事を足せば、受け取る人はいまよりハッピーになるか?」を検討するところからスタートしてみるのです。

最近、私は「あるメーカーのウェブサイトのリニューアルを手伝ってほしい」という依頼を受けました。

最初にやるべきは、既存のサイトを読者の気持ちになりきって閲覧することです。じっくり見ていけば、私の中に先の施設と同じような不満や不便が自然と沸き上がってきます。

そこで例の質問です。

「このウェブに、あとどんな仕事が加われば、私の不満は解消されるだろう?」

まずは「自分にできる仕事」をイメージします。文章を整える、経営者や技術者を取材する、構成を見直す、各ページのストーリーを考える、スペック情報を充実させる、ビジュアル案を決めるなど、編集者や執筆家としての仕事が次々と発想されていきます。

次に、「自分にはできないけれど、このウェブの改善には不可欠な仕事」を思い浮かべます。カメラマン、デザイナー、コーダー、サーバー移転の知識をもつエンジニア。あとは、それぞれの担当にどのような仕事を依頼するかを具体化すれば完了です。

これらすべてを約1時間の会議の中で出し切ることができました。もし、「リニューアルの企画を発案しなければ」と考え始めたら、もっと長い時間をかけて複雑な迷路をさまよっていたと思います。

この案件では、私の役割は企画のアドバイザー的なものであって、実際には執筆も編集もやりません。けれども、具体的な仕事としてアイデアを発想することで、このプロジェクトに関わる人たちのアクションが次々と決まっていきます。

つまり、1時間の会議終了とともに、リニューアルに向けての行動を即座に開始できるというメリットもあるのです。

「世界は仕事でできている」からヒントを得た「企画は仕事でできている」作戦。先の施設での不満や不便をどんな仕事で解消できるかをイメージする試みは、そのトレーニングのようなものです。

ぜひ、企画に煮詰まったらこのやり方を試してみてください。