なぜ、愛することで恐れや不安を抱くのか?

「愛とは何か?」を定義するのは簡単ではありません。そもそも、言葉で説明できるようなものではない気もします。

ただ、もし愛がしあわせをもたらすものだとすれば、その真逆にあるのはやはり、

「恐れや不安」

ではないかと私は予想しています。

なぜならば、自分の望むものをすべて手に入れて、自分のしたいことをすべて実現したとしても、心の中にほんの少しでも「恐れや不安」が残っていれば、「いま私はしあわせだ!」とは感じられないからです。

ところが私たちは、

「愛することで恐れや不安を抱く」

という不思議な体験をすることがあります。

たとえば、ほとんどの親は自分の子どもの体調をいつも気にかけています。顔色がよくない、食欲がない、どことなく元気がないなどの異変を見つければ、すぐに大きな不安が押し寄せてきます。

そういえば、恋愛ソングの歌詞に「しあわせすぎるのが恐い」という一節がしばしば登場します。愛する人と結ばれたことはたしかに嬉しいけれど、別れる日を想像すると胸が痛むという、恋の切なさを表現したものだと思います。

どちらも、相手を強く愛するがゆえに「恐れや不安」を感じる好例ではないでしょうか。

私たちはふだん、「愛」というものからできるだけ距離をおいて暮らそうとしています。

「そもそも愛なんて信じていない」「特別な人しか愛したくない」「人を愛すると多くのエネルギーを消費する」など、そうせざるを得ないさまざまな理由があるからです。

そしてこの、「愛することで恐れや不安を抱く」という感覚も、自分から愛を遠ざけておきたい大きな要因になっているように見えます。

ただ、この現象は冒頭に書いた私の説と明らかに矛盾します。愛の真逆が「恐れや不安」なら、愛するという行為にその反対の思いが伴うはずがないのです。

そこで私はこう考えました。

「愛するという行為によって、自分の中に痛みや苦しみが生まれたとしたら、愛とは別の何かを混入させているに違いない!」

もっともわかりやすいのが「代償」や「報酬」です。「この人を愛してあげれば、何かが返ってくるに違いない」と期待して必死に尽くしたにも関わらず、ありがとうのひと言も得られなければ、あなたはひどく失望するでしょう。

では、先に挙げた親子や恋人の話には何が混ざっているのでしょうか。

おそらく、

「所有感」

ではないかと思います。愛する対象を「自分のもの」とみなしているということです。

たしかに、燃えるような恋愛をしているとき、「私はあなたのものよ!」「君は僕のものだ!」という会話を本気で交わすことがあります。はるか昔にですが、私も口にしたことがあるセリフです(笑)。

同じように、「この子は私のもの」と見ている親も少なくないでしょう。

私たちが何かを所有するためには、まず「手に入れる」というプロセスを経なければなりません。ぜひ、あなたが心の底からほしかったものをゲットしたときの心境を思い出してください。

大きな喜びに包まれながらも、同時にソワソワするような、落ち着かないような、何かよくないことが起こる予感のようなものを感じたことがないでしょうか。

それは、

「得たものを失ってしまう恐怖」

であったはずです。

そしてこれこそが、親子や恋人のあいだに生じる「恐れや不安」の正体だと私は考えます。

お金、モノ、地位、名声、評価など、私たちの「所有」には、かならず「失うことへの不安」がセットでついてきます。これを愛するという行為に混ぜてしまえば、恐くなるのは必然なのです。

同じく恋愛ソングには「君を守りたい!」という歌詞が定番のように出てきます。ある意味で、愛することの象徴のような言葉にもなっています。でも、守ろうとするからには、間違いなく「自分のもの」が傷ついたり失われたりすることへの不安があるはずです。

たぶん「愛する」というのは、それほど重い話ではないと思います。

愛する人はそれぞれに意志をもって好きなように生きています。愛しているからといって、けっして「自分のもの」ではありません。愛しているからといって、ああしろこうしろと指図したり、命令したりできるような存在でもないのです。

ときには、自分の意にそぐわない行動をすることもあるでしょう。辛辣な言葉を投げかけてくることもあるでしょう。場合によっては、自分に反旗を翻して遠くへ行ってしまうかもしれません。

彼らは彼らのものです。何の問題があるでしょうか。いろいろな世界を見て、再び自分の目の前に現れたら、また同じように愛すればいいのです。

私たちにできるのは、どんなときでも「ただ愛する」だけです。

もし、そこに少しでも「恐れや不安」を感じたとしたら、愛ではない何かしらの異物が混ざっていることを疑ってくみてください。

Photo by Satoshi Otsuka.