過去に受けた負の影響から「再生」する方法

今日は「再生」について書いてみようと思います。再生という言葉にはさまざまな意味がありますが、ここでは、

「過去に被ったさまざまな影響を振り払って、本来の自分を取り戻すこと」

と定義しておきましょう。

以前にも何度か書きましたが、この世に誕生した瞬間の私たちはみな、グッドバイブスで、「恐れや不安」のない「平安な心」をもち、「ひとつ意識」しか知らない万能かつ、しあわせな存在であったと私は考えます。

なぜならば、生まれたばかりの私たちは、そのような自分であることに疑いを抱く経験を何ひとつしていないからです。

まだ両親から、

「何事もキッチリやりなさい!」
「先のことを考えて行動しなさい!」
「人様にバカにされるようなことをしてはいけない!」
「負けて得られるものなどない。とにかく勝ちなさい!」
「他人を蹴落としてでも、望むものは手に入れなさい!」

などと教えられてもいません。

教師から劣等感を抱くような扱いをされたこともありません。兄弟と比較されて、どちらが優秀だ、どちらが美形だなどと評価されたこともありません。同級生から酷い仕打ちを受けたこともありません。恋人に裏切られたこともありません。

失敗も成功もしていません。絶望も、挫折も、恐怖も味わっていません。焦ったこともなければ後悔したことも、罪悪感を抱いたこともありません。

やがて、1歳、2歳、10歳、20歳と年齢を重ねるに従って、いま挙げたような厳しい教えや、望ましくない経験が次々と自分の中にインプットされていきます。

もちろん、楽しいことやうれしいことも数多く体験しますが、なぜかそのような記憶は、吹き抜ける風のように通り過ぎるだけで、自分に多くの影響を与えているようには感じられません。

それよりも、トラウマやコンプレックスと呼ばれるような負の思い出ばかりが積もり積もって、いつしか、あまり好きにはなれないいまの自分が形作られているように思えるのです。

この「過去に被ったさまざまな影響」によって、私たちは人生の中で次のような制約を受け、いくつかの自由を失うことになります。

「本当はやりたいのに、なぜかやってはいけないような気がする」
「本当はできるはずなのに、なぜかできないような気がする」
「手放していいと頭ではわかっているのに、なぜか手放せない」
「それをしておかなければ、とんでもなく危険な目に遭うような気がする」

もちろんすべては、生まれた瞬間にはその欠片さえ抱いていなかった「妄想」です。これらの制約を振り払って、本来の自分を取り戻すこと、自由を取り戻すことを、私は「再生」と呼んでいます。

ある人は「それは個々の宿命のようなものだから変えられるはずがない」と言います。またある人は「それが自分なのだから受け入れるしかない」と言います。

けれども、その「変えられない自分」が、本当は何によって現実のものとなっているかさえわかれば、本来の自分に「再生」することは不可能ではありません。

「過去の影響を被った自分」「トラウマやコンプレックスを抱く自分」を現実の自分にしているものとは、

「いまここで、私たちが毎秒、毎分、下している選択」

にほかなりません。

ぜひ、こう捉えてみてください。

「自分に不必要だった教えや、望ましくない過去の経験に、私たちの存在そのものを変える力などない。それらが影響を与えているのは、ある場面でどのような選択をするかという私たちの意志だけである」

たとえば、過去に体験した出来事によって、あなたが他の人を信じられなくなったとします。あなたは「人を信じられない自分に変わってしまった」と思うでしょう。でも、存在としてのあなたは、永遠に生まれた瞬間のあなたのままです。

変わったのは、相手を信じるか否かを問われたときに、「信じないほうを選びたい!」というあなたの「意志」だけなのです。

そして「意志」はいつでもあなただけのものです。それは過去のいきさつ云々に関わらず、いつでもあなたが自由にできるものであるはずです。

以前、ある女性から「世間の評判を必要以上に気にする両親に育てられたために、他の人との比較や、他の人からの評価を気にせずにいられない」という相談を受けたことがあります。

「いまでも親御さんの教えに忠実でいたいのか」とたずねると、彼女は「そこから逃れたくて仕方ない」と答えました。比較も評価も気にせず、もっと自由に仕事をするというのが彼女の望む状態です。

私は最初にこうアドバイスしました。

「どれだけ思い出が頭に残っていたとしても、過去は幻想の時間で実際には存在しません。当然、過去に言われたこと、起こったことも、いまここにはないのです。まずはそれを認めてください」

彼女はゆっくりとうなずきました。そこで私は、

「では、あなたの背中のうしろにある過去という時間を、スパッと自分から切り離してみてください」

とお願いしました。

「これで少しだけ過去から自由になれたはずです」

やや戸惑いながらも、彼女の目には希望の光が射しているようでした。私は最後のステップを伝えました。

「次に比較や評価が気になる場面に出くわしたとき、あなたはこれまでと同じように、それをしたいという気持ちのほうに強く引っ張られるでしょう。けれども、過去の出来事はすべて振り払いました。いまとなっては、その力を生じさせているのはあなたの意志だけです。しかもそれはすっかり根拠を失ってしまった意志です」

彼女は力強くうなずいています。

「いま、あなたはどちらを選択したいですか? 比較や評価を気にするほうですか? それともそれをしないほうですか? あなたの意志で選んでください」

「もちろん、しないほうです」と彼女は答えます。

「もし、実際の場面でその選択ができたとしたら、あなたはその分だけ本来の自分に再生したと思ってください。そこでいい感じのフィーリングを抱けたら、次も、その次も、さらにその次も同じ選択をし続けてください」

幸運にもこのやり方に同意してくれた彼女でしたが、「なんだか、親が嫌いになりそうですね」と寂しそうにしています。私はこう付け加えました。

「それもまた幻想です。あなたが過去の影響を振り払って自由になれたとき、本当の意味で親御さんといい関係になれると思いますよ」

今話に思い当たる節がある人は、ぜひこの再生法を試してみてください。私たちにとって「いまここ」は、唯一、生まれ変われる時間でもあるのです。

Photo by Satoshi Otsuka.