最近、ほぼ同時期に、数人の知人からまったく同じ内容の質問を受ける機会がありました。それは、
「自分の身近にいる人が細かいことを気にするので困る」
というものです。
「身近にいる人」は今回の場合、奥さん、兄弟、恋人と、みな生活を共にする人でした。「細かいことを気にする」の具体的な中身は、
「子どもの学校に提出する書類に関して、書く文言や字のキレイさにうるさい」
「シャワーを浴びたあとには冷水をまく、備品を元どおりの場所に置くなどルールが厳し過ぎる」
「一日の予定をキッチリ立てないと気が済まない。前の日に仕事で寝るのが遅くなっても、午前中に映画に行くと決めていたら、容赦なく叩き起こされる」
などで、ジャンルは違えど本質は同じと感じるものばかりでした。
おもしろいのは、私に質問した全員の悩みが、「言われたとおりにやらないので、いつも怒られている」と、申し合わせたように共通している点でした。
たしかに、相手が身近な人であればあるほど、グッドバイブスでいることを妨げる深刻な問題に発展する可能性は大です。そこで今日は、このような話にどう決着をつけるかを考えてみようと思います。
私はこの質問を受けたとき、全員に次のことをたずねてみました。
「あなたはこの問題をどうのような形で解決したいですか?」
すべての人の答えはほぼ同じでした。
「あまり細かいことばかり気にして生きるのは疲れると思う。だからもっと楽になってほしいんです」
相手を思いやるとても優しい回答です。「小さなことで心を揺らす奥さんや兄弟の様子を見ているといたたまれなくなる。もっと楽に、ハッピーに暮らしてほしい」と、切に願っているのだと思います。
ただ、残念ながらこのゴールを達成することはほぼ不可能です。なぜならば、それを実現するためには、
「相手を変える」
必要があるからです。
もちろん、この話に登場する奥さんや兄弟や恋人が自ら私のところにやって来て、「こんな自分でいるのが辛いんです。どうにかなりませんか?」と相談されたとしたら、先の彼らの願いどおり、ハッピーに暮らす方法、すなわち「自分を変える方法」を伝えるでしょう。
けれども、彼らの話を聞く限りでは、相手に「自分を変えたい」という意志があるとはとても思えません。だとしたらやはり、
「変わる意志のない相手を、変える方法などない」
のです。
一般的にはここでこの話はジエンドです。相談者である知人たちが、日々、相手に怒られるのを耐え忍んで暮らすか、そのたびに戦いを挑んで喧嘩に明け暮れるか、あるいは思い切って離別するかの三択しかありません。
それではあまりに救いがないので、ここからは、私が考える唯一の解決方法を書いてみようと思います。わかりやすいように「質問した知人」を二人称の「あなた」に変えます。
まず、この問題を引き起こしているのは、双方が抱く「恐れや不安」であることを確認してください。その両方を明らかにする必要があります。
最初は「被害者」として相談に来たあなたの「恐れや不安」を棚卸ししましょう。「言われたとおりにやらないので、いつも怒られている」という話から浮かび上がるのはもちろん、
「平穏な生活の中で、突如として怒りをぶつけられること」
です。
自分がまったく気にならないことが原因で怒られるわけですから、まさに青天の霹靂、予期せぬ大惨事といったところでしょう。それはまるで、地雷のようなものが本来くつろぎの場であるはずの自宅に埋まっているようなものです。
もうひとつ、こちらも加えておきましょう。
「細かいことに神経質になって怒り出す相手が理解できない」
同時に、そんな理解不能な人が目の前に存在していること自体が恐いのです。
では、その地雷の側である「細かいことを気にする」人たちは、どのような「恐れや不安」を抱いているのでしょうか。こちらは三者三様ですが、おおよそ次のような感じではないでしょうか。
「いい加減な書類を学校に提出したら愛情のない親だと思われる。それに協力してくれない亭主は、子どもと自分への愛が薄いのではないか?」
「冷水をまかないとカビが生えてしまう。それを掃除して大変な目に遭うのは私だ。備品も元に戻せないガサツな人と暮らしていたら、私の理想の生活は崩れてしまうのではないか?」
「人生は短い。しっかりと計画を立てて暮らさなければすぐに年老いて後悔する。そんな危機感のない人と一緒にいて私の将来は大丈夫なんだろうか?」
これですべてが出揃いました。結論から言えば、いま挙げた双方の「恐れや不安」が、同時に少しでも緩和されれば、この問題は解決の方向に向かいます。
そのことを前提に質問です。
「相手はあなたの恐れや不安を和らげることはできますか?」
考えるまでもなく答えは「NO!」です。ではこちらはどうでしょう?
「あなたは相手の恐れや不安を和らげることはできますか?」
心情的には同じく「NO!」だと思いますが、可能性としては「YES!」です。具体的な方法はあとで書きます。
さて、残る命題はこれだけです。
「あなたは自分自身の恐れや不安を和らげることはできますか?」
もちろん「YES!」です。その方法はこのブログに何度も書いてきました。あなたの悩みの中にある「そうでない可能性があるにも関わらず、そうであると結論づけていること」、すなわち「意味づけ」を手放せばいいだけです。
そして、冒頭の質問には間違いなく「意味づけ」が含まれていました。それはほかでもない、
「細かいこと」
という判断です。
「もしかしたら、この人にとっては細かいことではないのかもしれない」
この新たな可能性に目を向けるだけで、相手を理解不能と思っていたあなたの「恐れや不安」は消え去ります。
さらに都合のいいことに、この「意味づけ」がなくなれば、先の「相手の恐れや不安を和らげること」もより簡単に行えるようになります。
ややショッキングな内容なので、いったん保留しておいたその具体的な方法とは、
「相手が望むとおりのことを本気でやる」
ただこれだけです(笑)。
奥さんが学校に提出する書類を最高にキレイな字で、とことん推敲して仕上げてください。兄弟が決めた風呂のルールを完璧に守ってください。彼女の綿密な計画に最後までつきあってあげてください。
「そんなことをしたらますますつけあがるだけで、私の悩みは増すばかりだ!」「一生、相手の言いなりになって暮らすってことか!」と反論したくなる気持ちはよくわかります。
けれども、実際にはそんな悲劇は起こりません。相手の「恐れや不安」が、自分の言い分を受け入れてくれないだけでなく、いたって非協力的なあなたの姿勢に起因していたことを思い出してください。
あなたが「細かいこと」という「意味づけ」を手放して、「相手が望むとおりのことを本気でやる」を日々、実行することによって、その「恐れや不安」は大きく和らいでいきます。
相手はまず、防御のための攻撃として「怒り」を発動しなくてよくなったことに気づくでしょう。次に、必要以上に張り巡らせていたその他の防御についても「解いていいかもしれない」と感じるようになります。
あるとき、すっかり安心した相手がふと、「これはもうやらなくていいかな?」と緊張の糸を緩める場面を目撃するはずです。まさに、あなたが待ち望んでいた「自分を変えてもいい」という意志をもった瞬間です。
それは、長いことしまっておいたあの言葉をかけるチャンスでもあります。
「そうだね。そのくらい手を抜いても大丈夫かもね。そのほうが楽かもよw」
百聞は一見にしかず。いつもの決まり文句ですが、ぜひ、だまされたと思ってやってみてください(笑)。
Photo by Satoshi Otsuka.
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