受け身で「いまここ」を感じるトレーニング

私の住む東京都では、このところ毎日のように猛暑が続いています。そろそろ「さすがにバテてきた」という人も多いのではないでしょうか。

そこで今日は、そんな、あまり身体を動かしたくない季節におすすめの、

「受け身でいまここを感じるトレーニング」

について書いてみようと思います。

このトレーニングには2つのメリットがあります。ひとつは「受け身の姿勢」がいかに大切かを学べることです。

私たちはさまざまな場面で「能動的であれ!」「自主的であれ!」と教えられてきました。一般的に「受け身の姿勢」というのは消極的で優柔不断な、ダメ人間の典型のように思われています。

ところが、そんな通説に反してこのブログでは、受動的であることで事態が好転するという話を数多く書いてきました。たとえば、

・意味づけを手放して相手を観察し直す。
・他の人からの依頼によって自分の役割に気づく。
・計画を手放して実際に起こった出来事に反応する。
・判断を保留して白黒つけない曖昧な時間を過ごす。

などは、どれも「自分が何をすべきかを現実に教えてもらう」という「受け身の姿勢」を推奨するものです。

能動的や自主的であるためには、どうしても予想や予測に基づく判断が必要になります。

「この人はこういうタイプに違いない。だからこう接してみよう」
「この出来事はこう進むに違いない。だからこう対応しよう」

先手が「自分の予測」で、後手が「現実」という関係です。まずシナリオを用意して、それを信じて行動するといってもいいでしょう。

文字だけで読むと、まさしく優秀な人のかっこいい行動パターンという感じがします。けれども実際には、この「予測」や「判断」が私たちに「恐れや不安」を抱かせ、自由を奪い、選択肢を大幅に狭めているのです。

そこで私は、できるだけ「予測」を手放し、「現実」が先手、自分は後手で受けに徹するやり方に活路を見出すことを考えました。こちらはシナリオや譜面なしのアドリブ作戦です。

ただ如何せん、私たちは「受け身」でいることに慣れていません。すぐにまどろっこしい、じれったいと感じて先手を打ちたくなってしまいます。「受け身でいまここを感じるトレーニング」はそんなせっかちな性質を修正するのに役立ちます。

2つめのメリットはもちろん「いまここ」を体感できることです。

このテーマについては、これまでもさまざまなメソッドを紹介してきましたが、「受け身」でいることによって、自分が「いまここ」にいるかどうかを判別しやすくなります。しかも、自分は動かなくていいという点で、真夏にトライするにはもってこいだと思います。

では、始めましょう。まずは「いまここで聞く」練習です。家族や恋人、友人など、親しい人をひとり選んでください。できれば四六時中、顔を合わせる同居人がベストです。ひとり暮らしの場合は、なるべく長い時間を供にする人を選んでください。

やることはたったひとつしかありません。

「相手が話し始めたら、食い入るように彼や彼女の顔を注視して、一文字一句を逃さずに最後まで聞く」

おそらく、ふだんのあなたは一緒に住む相手の話をうわの空で聞き流しているはずです。スマホを見たり、別のことを考えたりしながら、内容の1割程度も頭に入れていません。この真逆にトライすると思ってください。

相手の話す言葉がしっかりと耳に入っているあいだ、あなたは「いまここ」にいます。少しでも聞き漏らしたと感じたら、別のことを考え始めた証拠です。これを繰り返しながら、できるだけ長い時間「いまここ」にいるようにしてください。

「そんなの楽勝だよ!」と思うかもしれません。ぜひ、実際にやってみてください。すぐにいつもの「うん、はぁ」という空返事を繰り出している自分に気づくはずです。

次は「いまここで読む」練習です。読みたい本を1冊、用意してください。できれば、まだ1ページも読んでいない新しい本がいいでしょう。本が決まったら次のことを行います。

「初めて本を読む子どものように、ゆっくりと、すべてのページを大切に読む」

あなたはこれまで、本を「能動的」に読んでいました。重要だと思えるところはじっくりと、そうでない部分は斜めに飛ばしながら、自分のスピードで、自分の判断で、強弱をつけながら読書をしていたはずです。

この読み方を「受け身」に変えます。あなたが読むのではなく、「文字が向こうから目の中に入ってくる」感覚をもってください。スピードは習得中の外国語を読んでいるくらいをイメージするといいでしょう。

内容に応じて読むモードを変えるのも厳禁です。先の「いまここで聞く練習」と同じように、一文字一句、すべてを頭に叩き込むように読むのがポイントです。

残りのページ数が気になったり、早く読破したいと思ったりしたら、あなたは「いまここ」にいません。速度が上がってきたときも、内容が頭に入らなくなったときも、すぐに元の状態に戻すようにします。

この2つの練習ができたら、五感を使う他のことにも応用してみてください。受け身でやることなら何でもかまいません。

「いまここで食べる」練習であれば、口の中に入れたものを味わい尽くすことに集中します。映画やYouTubeを「いまここで観る」のもいいでしょう。触覚を使いたければ、熱めの風呂に入って「いまここでお湯を感じる」こともできます。

アロマが趣味の人ならエッセンシャルオイルを「いまここで嗅ぐ」のもありです。ラベンダー畑などの花園も絶好の練習場所です。

先にも書きましたが、簡単そうに見えてなかなか貫徹できないのが、このトレーニングのおもしろいところです。行ったり来たりを繰り返しながら、ぜひ「いまここ」と「受け身」の気持ちよさを体感してみてください。

Photo by Satoshi Otsuka.