10年ほど前から徐々に浸透してきて、いまでは誰もがあたりまえに口にするようになった言葉に「断捨離」というのがあります。
もともとはヨガの思想だったものが、最近ではすっかり「かたづけ術」の代名詞になっているなどの、細かいことはひとまず置いておきましょう。
それよりも、
「なぜ私たちは、結局は処分する不要なモノを、大量に買ってしまうのか?」
について考えてみたいのです。
かく言う私も、実は2011年くらいまでは、常軌を逸するほど大のモノ好きでした。
当時、ガジェットをテーマにしたブログ「ZONOSTYLE」や、動画番組の「Creation Hack TV」を主宰していたこともあり、買い物が仕事だと思っていたくらいです。
しかもおかしなことに、ほしいから買うのではなく、買いたいと思う何かを見つけることが目的になってしまっているのです。
実際に、当時の私は、暇さえあればガジェット系メディアから、クラウドファンディングや専門のネットショップまで、世界中のサイトを渡り歩いていました。
当然、かたづけや掃除が苦手な私の部屋は、足の踏み場もないほどモノというモノであふれかえっていきます。その様子はある種の狂気をまとった、きわめて「おかしな行動」だったように思います。
幸いなことに、現在の私は、そのような悪癖に悩まされることはなくなりました。5年ほど前に、我を忘れて買い集めたガジェットをすべて処分したことで、いまの部屋には最低限の書籍と楽器と文房具しか残っていません。
その後も、自分でも驚くほど買い物をする機会は激減していきました。あれだけ好きだったiPhoneもバージョン7を使い続けています。
おそらく、いまの私のエンゲル係数(家計の消費支出に占める飲食費の割合)を算出したら、ありえないくらい高い数値をたたき出すのでしょう(笑)。
ここまで変わることができた原因は、やはりグッドバイブスにあると思います。
ただ、拙著やこのブログを読んでいる方ならわかると思いますが、私はこれまで一度も、「節約しろ!」「無駄遣いをするな!」「モノに執着するな!」などの主張をしたことはありません。もちろん、自分にもそんな規律は課してはいません。
ただ、さまざまなイリュージョンを手放して「平安な心」でいることを目指したり、勧めたりしているだけです。
そういえば、私とともにグッドバイブスの普及活動をしてくれている大切なパートナーのひとり、佐々木正悟さんも、自身のポッドキャスト番組『グッドモーニングバイブス』で、「最近、お金を遣わなくなった」と話していました。
なぜ、グッドバイブスの取り組みが、結果として断捨離の「断」(不要なものを断つ)につながるのでしょうか。
最大の理由はやはり、
「いまここにいる時間が増えることで、恐れや不安を抱く機会が減る」
からだと、私は考えています。
試しに、2日を使ってこんな実験をしてみてください。初日は、朝から12時まで、昼食のことをいっさい考えずに仕事をします。できれば時間も気にせずに、ただ「いまここ」で目の前のことだけに集中してください。
オフィスで働く人なら、あるとき、他の同僚たちがランチに向かう気配に気づくはずです。あなたはその様子を見て初めて、「もうお昼の時間か」と12時になったことを知ります。
ここですかさず、
「今日は何を食べるかな?」
とイメージして、最初に思い浮かんだものを食べてください。
2日めは、これと真逆のことをやります。朝、目覚めたときから「昼食に何を食べるのがしあわせか?」だけを考え続けてください。仕事中も、なるべく「理想のランチ」について検討しておくようにします。
時間を気にすることも忘れてはダメです。暇さえあれば時計を見て、「早く昼にならないかなぁ」と、とにかくランチタイムを心待ちにしておきます。
前日とは違って、12時になるころには、食べたいものがすっかり決まっているはずです。それが何であろうと食べてください。
以上で実験は完了です。最後に、次のことをレビューしてみます。
「初日と2日めを比べて、どちらがゴージャスで高価な食事になったか?」
2日間をまったく同じ条件で過ごすことはできないし、その日の天候や気分なども大きく影響するので、「かならずこうなる」という結果にはならないと思います。
でも、実際にこの数日間を使って私自身で検証してみたところ、やはり朝から「理想のランチ」のことばかり気にしているほうが、より贅沢な食事を選ぶ傾向が強くなることがわかりました。
それだけでなく、「昼食に何を食べるのがしあわせか?」と、最高のメニューを考えているときの心境が、狂ったように「買いたいと思う何かを見つけよう」としていた当時の気分と、ほとんど同じであることに気づいたのです。
それは、
「この食事(この買い物)が、私をしあわせにしてくれるに違いない!」
という期待感と、
「でも、もし自分の選んだものが大ハズレだったら、不幸になってしまう……」
という懸念が複雑に入り交じった、ワクワクというよりは、ソワソワして落ち着かない、全体としてはあまり快くない感覚です。
いまだから言えますが、つまりは「恐れや不安」なのです。
私の常軌を逸した買い物も、ランチの実験も、次の2つの条件が揃っている点に注目してください。
① モノや食事など、自分の外にある何かがしあわせをもたらすと期待している。
② それは未来に得られるものである。
これによって私たちは、先に書いたように「ここだけは絶対にはずせない!」という「恐れや不安」を抱くことになります。
その結果、来たるべき未来に向けて慎重に検討を重ねればかさねるほど、得たいと思う対象は、自然とよりゴージャスで高価なもの、すなわち「Too Much」なものになっていくわけです。
しかも、かつての私が嫌というほど経験してきたように、①の期待はけっして百発百中ではありません。それどころか、やればやるほど「しあわせを感じる率」は下がっていきます。
満足できなかった思いを解消しようと、「次こそは!」と何かを買い、ハズレをつかまされては「いや今度こそは!」とさらに買い続けます。
気がつけば、「結局は処分する断捨離の対象物」が部屋を埋め尽くすところまでいってしまうわけです。
私がそうであったように、この「逆断」の無限ループから抜け出すためにもっとも有効な方法が、
「いまここで、リアルタイムに最大の報酬を得る」
ことです。
実験の初日にやったように、ランチのことなど気にせずに「いまここ」で仕事をしてさえいれば、確かな手応えを感じたり、自分が出した最高品質のアウトプットに癒されたりすることで、「不足感」をもたずに過ごせます。
それさえあれば、「未来に手に入るであろう自分の外にある何か」など、思い浮かべる余地もなくなるのです。
ぜひ、いま「断捨離したいなぁ」と感じているなら、まずはこの方法で「断」から始めてみてください。
ただし、「そうか、もう余計なものは買わないぞ!」などと、行動をあらためようとするのは禁物です。買うという行動はあくまで結果にすぎません。
ぜひ、原因である「恐れや不安」にフォーカスしてください。そうでなくては、この手の「おかしな行動」はまず収まってくれないでしょう。
私も「恐れや不安」を消し去ってくれる「いまここ」のメソッドを実践するまでは、「不安だ! もっと買いたい!」の衝動に抗うことはできませんでした。
反対に、いっさいの「恐れや不安」がなければ、今話の実験に出てきた「ゴージャスな食事」をすること自体には何の問題もありません。
高価なワインや高級外車も、それを愛してやまない人にとってはしあわせをもたらすアイテムであるはずです。自分の外にあるからといって、本当に必要なもの、心から大好きなものまで「断」する必要などないのです。
私の場合なら、何年も大切に使い続けている、ギブソンのギターやVOXのアンプがそれに当たります。どれもそれなりに高額です(笑)。
ただし、そのような「かけがいのないもの」が、足の踏み場もないほど部屋を埋め尽くすことは、たぶんありえないとも思います。
Photo by Satoshi Otsuka.
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