グッドバイブスを現場で実践する「対話編」

修験道の教えに「山の行より里の行」という言葉があります。ひとりで山にこもって、滝行や断食などの厳しい修行に耐えられたとしても、そこで得たものを日々の暮らしに活かせなければ意味がないということです。

私は「グッドバイブス」もまさに「里の行」だと思っています。

禅や瞑想をするなどして、ひとりでいるときに思考や妄想を手放せるようになるのもわるくありません。けれども、私たちが本当にその技術を必要とするのは、やはり、望ましくない言動をする人や、恐いと感じる出来事に遭遇したときです。

そこで今日は、グッドバイブスの茶帯に相当する、

「周囲の人々の言動や、思いがけぬ出来事に影響されることなく、いつでもグッドバイブスでいられる」

の実践方法について書いてみようと思います。今回はその「対話編」です。

こんな場面を想定しましょう。

「あなたは、同じ職場にいるAさんと話しています。10分ほど会話を交わしたところで、Aさんの表情に苦々しさが現れ、何やら不機嫌な感じを醸し出してきました。言葉の端々にトゲのようなものも感じます」

おそらく、あなたは少し動揺し始めているはずです。ここからどう対処していけば、グッドバイブスでいられるかが今回のテーマです。

まず、会話の中で、最初に「相手の言動にドキッと反応する瞬間」を見逃さないようにします。ここがもっとも肝心なところです。何も考えずに、次のことだけを確認します。

・反応してしまうのは仕方ない。これを止めることはできない。
・反応したということは、身体のどこかに異変が起きているはず。

この最初の反応は、おそらく私たちには制御不可能なものです。そこをコントロールしようと思わずに、グッドバイブスの取り組みの合図だと捉えてください。

ただし、動揺したままではこのあとのステップがうまくいきません。そこで、ドキッとしたことによって起こっているはずの「身体の異変」のほうに注目します。

あなたはいま「心が動揺した」と思っているはずです。けれども、モノではない「心」が傷つくことはありません。そうではなく、何かの危険を察知した「身体」がふだんと違う状態になっているのです。

相手の話を聞きながら、胸が締め付けられているのか、心臓の鼓動が早くなったのか、胃が痛くなったのかなど、自分の身体のどこがおかしいかを探ってください。

見つかったら、何も考えずに、

「異変が起きている部分に手を当てて癒す」

ようにします。

これで、最初の反応も動揺も次第に静まるはずです。

次に、あなたの中に「復讐心」が芽生えることを警戒します。相手はこれから、あなたにはとうてい納得できないこと、理不尽と思えること、身勝手な言い分などを次々と繰り出してくるかもしれません。

それらはどれも、あなたにとって「相手からの攻撃を受けている」と感じるものであるはずです。間違いなく、ある種の「悔しさ」があなたの心に生まれ始めるでしょう。

ここで、次のことを自分に強く約束します。

「私はこの攻撃に見える言動に、攻撃で返すことは絶対にしない!」

相手より優位に立とうとか、相手を言い負かそうとか、仕返しをしようとかの思惑をすべて手放すということです。

慣れるまでは「そんなことは絶対に無理!」と思うでしょう。ぜひ、「相手との勝負ではなく、自分との勝負」と思ってください。敵は目の前のAさんではなく、あなたの中にある「復讐心」です。

攻撃で返すことはしない覚悟が決まったら、

「相手の言葉や表情だけに集中する」

ようにします。

これ以上できないくらい一心に、聞くこと、見ることに集中してください。これで、自動的にあなたの「思考」が止まります。

ただし、油断すると、相手の心を読みたくなったり、話の先行きを予想したくなったりします。その瞬間、「負の意味づけ」や「望ましくない未来の予測」が始まり、あなたの中に「恐れや不安」が生まれてしまいます。

「いま、想像はまったく役に立たない。現実にすべてを教えてもらう」

と自分に言い聞かせてください。現実とはすなわち、相手が語る言葉です。

さて、この会話の命運を分ける重大な決断をするときが来ました。次の2つのことを「信じる!」と強い意志をもって宣言します。

① 相手はけっして、ひどい人間、バカな人間、憎むべき人間ではないと信じる!
② 私は相手に何を言われても傷つかないと信じる!

信じる理由はそれほど重要ではありません。この2つの信念なしには、あなたがグッドバイブスでいられることはないと思ってください。

そのまま相手の話に集中していると、あなたの中に「発したい言葉」が浮かんで来るはずです。そこでもう一度、先の「攻撃」の話を確認します。

「いま自分が発しようとしている言葉に、攻撃の刃が隠されていないだろうか?」

「あるかも」と思ったら、発言を保留して再び相手の話を聞きます。もし、これは攻撃ではないと確信したら、「発したい言葉」真っ直ぐに伝えてください。

何かをもっと知りたいと思ったら、質問の形になるでしょう。すでに書いたように、想像ではなく現実に教えてもらうことが大切です。躊躇せずに、どんどん聞いてください。インタビューアーになったような気分で、相手の思いをすべて引き出せばいいのです。

相手が黙り込み、あなたも「発したい言葉」が浮かばなければ、次のボールは相手がもっていると思ってください。何分だろうと沈黙を恐れずに、そのまま静かに相手の発言を待ちます。

先の2つの信念をしっかりともったまま、このやり取りを続けていると、あなたの中に、

「相手への不思議な興味」

が湧いていることに気づくでしょう。

なぜならば、聞くことに徹していれば、あなたの想像を超えた相手の思いを数多く知ることになるからです。それは、「ああ、そういうことなのね」「へぇ、そんなこと考えていたんだ」という新鮮な感覚です。

ごくわずかでも「相手への興味」をもてたら、それを頼りに、

「あなたの中にある温かな感情」

を膨らませてみてください。

うまくいけば、少しだけ相手に対して愛おしさのようなものを感じられるはずです。「お、たしかにあるかも!」と思ったら、これまでの「見ること、聞くことに集中」に、その愛おしさをミックします。

ここまで来られたら、あなたは、先に理由もわからず無条件で信じた、

「何を言われても傷つかない自分」

がいることを確信するでしょう。

グッドバイブス茶帯、「周囲の人々の言動や、思いがけぬ出来事に影響されることなく、いつでもグッドバイブスでいられる」をゲットした瞬間です(笑)。

Photo by Satoshi Otsuka.