「他人の評価」に依存する世界から抜け出す

昨日の記事で、「自己肯定感をもてなくなったときの対処法」について書きました。具体的には、

「私たちは価値ゼロの状態で生まれてくる。そこからスキルや能力、経験を身につけ、次第に価値ある人間として成長していく」

という価値観を手放し、自分のスタート地点を、

「すべての人々は、完全に等しい価値をもって生まれてきた」

に設定し直すというものでした。

今日は、このように意識を変えることで、私たちにどのような可能性がもたらされるかを考えてみようと思います。

まず、「ゼロの状態から、努力によって自分の価値を高める」という発想が、「未来報酬型のしあわせ」に根ざしている点に注目してください。バックナンバー「危機感を抱くことが原動力になるのか?」で書いたように、それは、

「自分をできるだけ圧迫して追い込んでおいて、何かを成し遂げた瞬間に賞賛とともに一気に解放される!」

という、私たちが幼いころから叩き込まれてきた幸福感です。

「自分の価値を高める」とはつまり、「けっして現状には満足しない」ということです。だとすれば、その人の期待はつねに「現在よりも価値が高まった自分」に向けられています。

「いまの自分」ではなく、さらに磨かれた「未来の自分」に興味があるという意味で、やはりその人が求めているのは「未来報酬型のしあわせ」なのです。

ここで見逃してはならないのは、

「その人はどのようにして、自分の価値が高まったことを知るのか?」

の判定方法です。

「もちろん、自分自身の感触じゃない?」と思うかもしれませんが、残念ながらそれだけでは「何かを成し遂げた瞬間に賞賛とともに一気に解放される!」という、もっとも楽しみにしている快感が得られません。

実は、この最大の報酬を手に入れるためには、

「他人からの評価」

が絶対に欠かせないのです。

自分以外の誰かから、「よくやった!」「素晴らしいよ!」と評価されたとき、その人は「よし、私は自分の価値を上げられた!」と実感します。もちろん、ストイックに努力を重ねた日々が大変であればあるほど、その喜びは大きくなります。

たしかに、とてもわかりやすくて理にかなった仕組みです。多くの人がこのやり方の中でモチベーションを見出し、一定の結果を出していることも事実です。

けれども、自分の価値の判定を「他人からの評価」に委ねることによって、私たちは次の2つの大きな誤解をしがちなのです。

① できるだけ他人の力を借りずに、自力で成し遂げたいと考えてしまう。
② 自分の身近にいる評価者のために仕事をしてしまう。

たとえば、子どもがレゴのブロックでお城を作っていたとします。彼の望みは親に「すごいね、こんなのができたんだ!」と絶賛してもらうことです。もし、途中で親が「手伝おうか?」と言ってきたら、この子はどうするでしょう。

「ダメ!」と言い張って、親が手出しするのを猛然と阻止するはずです。なぜならば、少しでも他人の手が入ってしまえば、もう自分だけの手柄ではなくなってしまうからです。

努力によって自分の価値を高めようとする人にも、これとほぼ同じ心理が働きます。自分への評価が薄まるという理由で、仲間に助けてもらうこと、手を貸してもらうことを、心のどこかで拒む自分が現れてしまうということです。

また、拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』で書いたように、私たちが仕事をする最大の目的は「誰かの役に立つ」ことです。その相手はあなたの仕事を受け取る人、すなわち「顧客」であって、けっして上司ではありません。

けれども、大きな会社であればあるほど、お客さんがあなたに直接、感謝を述べてくれるような機会はめったにありません。仕方がないので、そのターゲットを自分の直接の「評価者」である上司やリーダーに変更してしまうのです。

さて、もしあなたが「他人からの評価」を頼りにする必要のない、「すべての人々は、完全に等しい価値をもって生まれてきた」という価値観をもとに動いたとしたら、何が変わるでしょうか。

ここまでを読めば想像がつくように、①と②の誤解を手放すことができます。

あなたは自分の価値を高めるために仕事をするわけではありません。だとしたら、誰の手柄か、誰が賞賛を受けるかなどの心配とも無縁です。それは、あなたの職場に利害が対立する人などひとりもいないことを意味します。

この瞬間、

「上司や同僚、部下など、すべての人とのつながりを感じられる」

ようになるはずです。

自分だけでは手に負えないこと、専門知識が必要なこと、明らかに他の人のほうが得意なことなどがあれば、自分の不足を埋めてくれるよう、まわりの人たちに躊躇なく依頼できるでしょう。

その時点で不得手なことを自分の凹と素直に認め、その代わりに凸を発揮できる場面を真摯に見つけようとするでしょう。

「孤立無援の単独プレイをやめ、共同作業やコラボレーション、チームプレイを信じるようになる」

ということです。

もうひとつの大きな変化は、

「顧客と自分とのつながりを取り戻せる」

ことです。

もしかしたら、自己肯定感を失っているあなたは、「一生懸命やっているのに、期待するほど上司が評価してくれない!」と感じていないでしょうか。それによって、自信を失いかけていないでしょうか。

私は編集者時代、12か月連続で担当した記事が読者アンケート1位に選ばれるという、それなりに輝かしい成績を残したことがあります。けれどもこの間、編集長に面と向かってほめられたのはたったの一度きりでした。365日で1日です(笑)。

プロの世界というのはそういうものです。ベタ褒めするキャラの上司もいれば、あえてそれを口に出さないボスもいます。仕事の本当の報酬はそこにはないのです。

すでに、「すべての人々は、完全に等しい価値をもって生まれてきた」世界を選んだあなたには、上司の評価などそれほど重要ではないはずです。

ぜひ、もう一度、

「これは誰のための仕事だったのか?」

を思い出し、その答えである「あなたの仕事の受け手」のためにエネルギーを費やしてみてください。社内で評価されるためではなくです。

最後に、この先「仕事がうまくいかない」「仕事から満足感を得られない」と感じたときはまず、今話で挙げた2つの誤解を疑ってみてください。

・ 誰の助けも借りずに自力でやり遂げるのが一人前だと思い込んでいないか?
・ 上司の評価ばかり考え、それが得られないことを不満に思っていないか?

そして、「ゼロの状態から、努力によって自分の価値を高める」世界から抜け出せば、このような思いの反対側に行けることを思い出してください。

Photo by Satoshi Otsuka.