「恐れや不安」を感じていないときの私たちは、何かを判断するのにあまり迷うことはありません。直感のようなものが冴えわたり、たとえ根拠や理由が明確でなくても「こちらでいいはず!」と、自分でも不思議なくらい自信をもって何かを決められます。
今日はこれとは真逆のモード「どちらを選んでも不安で、なかなか決断できない」ときの過ごし方について考えてみようと思います。
そもそも、私たちが冒頭に挙げたような迷いのない状態になることは極めてまれです。なぜならば、そうなれる条件である「恐れや不安を感じていない」ことがほとんどないからです。
だからこそ、拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』やこのブログで、「意味づけ」や「過去や未来について考えること」を手放す方法について書いているのですが、何かの判断に迷い始めてからそれを行うのは簡単ではありません。
その代わりに次のことにトライしてみます。
「曖昧さと仲良くする」
この言葉を読んだだけで強い抵抗を感じる人も少なくないでしょう。私もこれが、常識とは真っ向から対立する姿勢だということは十分にわかっています。
けれどもあえて、「決断は1秒でも早く!」「YesかNoかをはっきりさせろ!」「自分の進むべき道を明確にしろ!」といった教えの逆を行くことにします。
とにかく、「どちらを選んでも恐い、不安だ」と感じて結論を出せないときは、
「しばらくは白黒つけない時間を過ごす」
覚悟をもってみてください。
期限が間近に迫っているような案件であっても、許される範囲のギリギリまで、徹底的に判断を保留するようにします。
たとえば、あなたのチームに「それなりに努力はしているのだけどなかなか成果が出せない。そろそろ、まわりのスタッフからも苦情が出始めている」という、切るか残すかの判断に迷うAさんがいたとします。
あなたはチーム全体のパフォーマンスが落ちることを懸念しながらも、「もう少し猶予を与えれば伸びるんじゃないか」と、Aさんにそれなりの期待も寄せています。まさに、どちらを選んでも後悔するんじゃないかと、「恐れや不安」が沸き上がる場面です。
通常ならここで「早く決断せねば」と結論を急ぎたくなるでしょう。けれども、その気持ちをグッと抑えてしばらくは白黒つけずにいるようにします。
ただし、それは現状で想定される「AかBか?」の選択肢をもったまま、ただ判断だけを保留するということではありません。
「白黒つけないとは、過去のいきさつによってすでに固定しまっている選択肢さえも一度、曖昧にすること」
と捉えてください。
Aさんの例でいえば、彼がそれまでにやらかしたこと、他のスタッフから聞こえてくる評判、そのような過去の出来事からあなたが彼にもっている印象、それらすべてを水に流して白紙の状態に戻します。
文字どおり「白紙」にするから「白黒つけない」でいられるのです。
これであなたは、冒頭に書いた「迷わないモード」に入れるようになります。いつかかならず直感が働くことを信じて、そのフラットな姿勢のまま目の前で起こることをつぶさに観察してください。
「そうか! Aさんに課した目標設定や役割の配置が間違っていたのか!」
「ああ、こうすれば伸びると思ってアドバイスしたやり方が、Aさんの個性とまったく合っていなかったのか!」
「なるほど、スタッフが抱く不満の原因は別のところにあって、Aさんはその象徴として槍玉に挙げられていただけなんだ!」
以前には想像もしなかった数多くの気づきが得られるでしょう。「AかBか?」だけではない、新たな選択肢も次々と見つかるはずです。
あなたが正しいと信じていたゴール、やり方、責任の範囲などに修正の余地があると直感が言うのであれば、それらもすべて白紙に戻してください。それまで固定されていた行き先や道筋をいったん曖昧にしてしまえば、あなたもまわりの人々も再び自由を得られるようになります。
そうして、さまざまな状況が「やわらかくなった」と感じられたとき、今度は、
「時間があなたの味方をする」
ようになります。
実際に体験することなしに頭で理解するのは難しいのですが、私はこの「しばらくは白黒つけない時間を過ごす」というやり方をとおして、
「ああ、判断を急がなくてよかった! ほんの少し曖昧な時間を過ごすだけで、こんなに事態は好転するのか!」
という思いを幾度となく味わっています。
それは「時間が解決する」などという消極的な話ではありません。「恐れや不安に基づく選択」を徹底的に保留することで、その真反対の世界を自分自身で創造する、その意志を発揮する「時間」を得られたような感覚です。
期限を定めるために時間があると考えることもできます。けれども、このような創造にこそ、焦らず、急がず、たっぷりと時間をかけていいのではないでしょうか。そのためにも身につけておきたい習慣が「曖昧さと仲良くする」なのです。
Photo by Satoshi Otsuka.
Leave a Reply