本気モードとは考えを手放して動き出すこと

拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』に「いまいる場所で本気を出す」という話が登場します。今日は、このテーマをさらに深掘りして「本気を出すことの本質とは何か?」について考えてみたいと思います。

拙著で書いたように、いま目の前にある仕事を本気でやることによって次の2つのことが起こり始めます。

① 仕事から自分の「好き」や「得意」が浮かび上がってくる
② 自分の個性に紐付いた「しあわせな役割」に導かれる

では、なぜそうなるのでしょうか。

拙著には書かなかった「本気を出すこと」の本質がここにあります。それはほかでもない、

「本気を出す、すなわち何かに没頭することで自我のささやきが消える」

からです。

バックナンバー「自分をもろくて儚い存在とみなす自我の正体」で書いたように、「自我」は自分自身を「モノと同じようにいつかは朽ち果てて消え去る存在」「心も身体も傷つきやすくもろい存在」と見ています。

また、他人や身のまわりの世界を「自分とは利害が対立する存在」ともみなしています。そこで「自我」は、孤独で弱い自分が過酷な状況で生き抜くために、

「考えろ! 想像しろ! 危険やリスクをすべて洗い出せ!」

と私たちに命じます。

ぜひ、あなたが目の前の仕事に本気で取り組めず、適当に流している様子をリアルに想像してみてください。おそらく、5分か10分のあいだ手を動かしては小休止して、「ああ、いつ終わるんだろう」「ああ、面倒くさいな」「ああ、早く帰りたい」などと、すぐに「考える時間」に移行してしまうはずです。

これが、「自我」があなたにしてほしいと望んでいる状態です。「自我」はいつでも、行動することが何よりも危険と感じています。できればあなたには、そのまま考え続けるだけで、動くことはずっと躊躇していてほしいのです。

これに対して、「本気モード」になった私たちは、「恐れや不安」のない「いまここ」で目の前のことに没頭します。さらに、いったんそうなってしまうと、いい意味で後先など考えずに、どんどん前に進み続けます。

「自我」はこの状態、すなわち私たちが「考えるのを止めて没頭すること」を何よりも嫌います。つまり、「いまいる場所で本気を出す」とは、

「自我の戦略に逆らって恐れや不安を手放し、本来の自分の能力を発揮する」

ことでもあるのです。

たとえば私たちは、「こんなに稼ぎの少ない人を好きになっていいのか?」など、何かを好きになる際にも「恐れや不安」を抱きます。

何かの決断を迫られる場面でも同様に、「こんな不安定な仕事を選んでいいのか?」「こんなに難しい道を選んでいいのか?」と、「恐れや不安」が答えを出すことを難しくします。

「本気モード」によって「自我」を黙らせた私たちの中からは、自然とこれらの「ノイズ」が除去されていきます。その結果、本来の自分を取り戻したあなたに、冒頭に挙げた2つのことが起こり始めるのです。

映画『燃えよドラゴン』でブルース・リーが放った名言があります。

「Don’t think, feel!」(考えるな、感じろ!)

これを今回の話に照らし合わせて私なりに解釈するとこうなります。

「自我の戦略である思考を手放せば、恐れや不安は消える。そこで現れる本来のオマエが感じたことに従え!」

ただ、私たちは「考えるな!」と言われても、そう簡単には実行できません。そこで、自然と「Don’t think, feel!」の状態になるように、「いまここ」で目の前の事柄に集中するのです。

そのもっとも具体的な方法が「いまいる場所で本気を出す」ということです。

Photo by Satoshi Otsuka.