「本気」になるための機会と出会いの捉え方

自分の「好きなこと」や「得意なこと」、あるいは個性から導き出され能力が誰かの役に立ち、それをそのまま自分の仕事にできたとしたらどうでしょう。きっと、私たちはご機嫌に働けるに違いありません。

これを私は「しあわせな役割」と呼んでいます。

ではどうすれば「しあわせな役割」を見つけられるのでしょうか。拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』では、その方法として、たったひとつのことしか提案しませんでした。

「いまいる場所で本気を出す」

だけです。

その理由は2つあります。ひとつは、仕事であれ、遊びであれ、そもそも本気でやらなければ、それが自分にとって興味をもてるものかどうかは永遠にわからないからです。

仕事における楽しさは、外から与えられる刺激とは違います。自分の内側から喚起される「ワクワクする感覚」がすべてです。一歩踏み込んで、本気を発揮することなしに、それを体感することはできないのです。

2つめは、本気を出すと、

「しあわせな役割に導かれる」

からです。

私たちはいつでも、ひとりではなく「つながり」の中で生きています。会社に採用される、ある部署に配属される、誰かに仕事を依頼されるなど、他の人たちとの関わりが自分の役割を創ってくれるといってもいいでしょう。

私はこの「つながり」が、

「引力(Attraction)によって生まれる」

と考えています。

引力とは「互いに引き合う力」です。人と人とのあいだに働くのは、引力の英訳「Attraction」をさらに別の意味に日本語訳した「魅力」です。つまり、

「互いに惹かれ合う力」

によって、私たちは自然と「しあわせな役割」に導かれていくということです。

そして、この「互いに惹かれ合う力」も「本気」によって発せられるのです。

さて、ここからが本題です。「そうは言っても、なかなか本気を出す気にはなれないよなぁ」と思う人も少なくないでしょう。そこで今日は、「本気になるための機会と出会いの捉え方」について書いてみようと思います。

まず、この世界で起こるすべてのことに、「原因」と「結果」があることを認識しておくようにします。

あるプロジェクトが成功するのは、成功するタイミングで成功するアクションを実行してきたからです。あるチームが優勝するのは、優勝できる練習を重ねてきたからです。成功や優勝が「結果」、タイミングやアクションや練習が「原因」です。

誰かを好きになったり、嫌いになったりするのも「結果」で、うまく言語化できないにしても、そこにはかならず何らかの「原因」があります。

では、たとえば「しあわせな役割にたどり着けた!」という「結果」にとって、何が「原因」になり得るでしょうか。

努力、精進、人脈、チャンスなどのキーワードが思い浮かぶかもしれません。では、その具体的な中身についてはどうでしょう。「いつ、どこで、何をすればいいか?」を詳細にイメージできるでしょうか。

おそらく、あまりに漠然としていて答えを出すのは簡単ではないはずです。なぜならば、

「風が吹けば桶屋が儲かる」

の言葉どおり、私たちには、この世界で起こる「因果関係」の全貌を正確に把握することができないからです。

先に書いた「成功するアクション」や「優勝できる練習」にしても、それが「原因」だったと判明するのは、あくまで「結果」が出たあとのことです。最初から「これが必勝法だ!」などと「原因」を先読みするのは、やはり不可能なのです。

そこで重要になるのが、いつでも油断せずに、

「一期一会」

の感性をもっておくことです。

使い古された感が否めない言葉ですが、「原因」と「結果」の法則を真摯に受け止める前とあとでは、その意味合いはずいぶんと変わってきます。

「一期一会」とは、

「これは何かの結果の原因になる可能性がある。そして、これとまったく同じ状況に出会うことは、私の人生に二度とない!」

という重大な事実を受け止めることにほかなりません。

ぜひ、2つの「一期一会」をしっかりと意識しておいてください。まずは、「機会の一期一会」です。あらゆる出来事に遭遇したとき、

「この場には二度と出会えない!」

と自分に言い聞かせます。

毎日、同じことが繰り返されているように見えるルーチンワークや定例会議、家族との食事、恋人との会話も、実はそのたびに何かが違う、人生で一度きりの「場」です。もちろん、そのすべてが、私たちの想像を超えた「結果」の「原因」になると考えてください。

もうひとつが、文字どおりの「人との一期一会」です。どんな人に対しても、

「この人と、この同じシチュエーションで出会うことは二度とない!」

と、しっかり認識しておきます。

こちらも「機会の一期一会」と同じように、初対面の人だけでなく、毎日のように顔を合わせる常連さんも対象です。

相手は同じですが、時間や場所、状況、それぞれの思いなど、あらゆる事柄が毎回、毎回、異なっています。職場の人々から家族まで、初めて対面したかのように、まっさらな気持ちで向き合ってみてください。

ただし、機会の場合も人の場合も、損得勘定などの判断を混入させてしまうと、すべてが台無しになります。「これを大切にして何のメリットがあるんだろう?」と思ったときは、「風が吹けば桶屋が儲かる」の話が役に立ちます。

何がどう転んで、どのような「結果」に導かれるかわからないから、「一期一会」の感性をもって、けっして軽んじずに「本気」を出すのです。そのたびにあなたは、引力、すなわち「魅力」を「原因」に注ぎ込んでいると捉えてみてください。

こうしてみると、「本気」とは、

「いつか桶屋が儲かるための風」

なのかもしれません。「いま自分は、しわせな役割に導かれるための風を吹かせているか?」を自問しながら行動するということです。

そう考えれば、「いまいる場所で本気を出す」ことは、けっして自分にとって割の合わない選択にはならないはずです。

Photo by Satoshi Otsuka.