拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』の第9章で「罪悪感」について書きました。罪悪感をもつと、私たちは自分自身を攻撃し始め、それによってとても弱くなります。間違いを罪に変えさえしなければ、修正によってキレイに消し去ることができるという内容です。
実はこの話には続きがありました。2017年に発売中止になった『ジョン・レノンのイマジンみたいに働く』をインプレス版『グッドバイブス』としてリライトする際に、ややフォーカスがぼやけると感じて削った部分です。
それは、自分に非があると自覚していることについて相手から批難を受けている状況で、「もし罪悪感をもたずに対話できたら何が変わるか?」について書いたものでした。
今日はこの幻の「罪悪感を手放すコミュニケーション」をまるごと掲載しようと思います。拙著の他の話と同様に、現場で何度もトライしたリアルな体験に基づくメソッドです。
あなたが同じようなシチュエーションに遭遇した際には、ぜひこのやり方を試してみてください。以下、そのアウトテイク全文です。
罪悪感を手放すことで私たちのコミュニケーションも大きく変わっていきます。
まず、結婚相手、親友、仕事上のパートナーなど、誰でもいいので、自分がもっとも大切と思う人をひとり想像してみてください。
次に、その大切な人から自分の欠点や過去の思わしくない言動について指摘を受けている場面を思い浮かべます。いま自分は大切な相手から、
「いままで言えなかったが、あなたのそういうところに私は傷ついてきた」
と告白されています。
おそらく、すぐに罪悪感で心がいっぱいになることでしょう。では、その罪悪感を抱いた自分は相手にどんな言葉を返すでしょうか。
私ならまず、「けっしてあなたを傷つけようとしてそれを行ったわけではない」ことを必死に説明すると思います。相手は自分にとって大切な人です。「とにかく誤解を解くことが先決」と考えるからです。
ただし、相手のためというよりは、そのような誤解によって自分が抱くことになってしまった罪悪感を1秒でも早く手放したいというのが本音です。
その結果、傷ついたと言っている相手に対して、最初のボールとして自分を正当化する「言い訳」を投げてしまうのです。
それを受けとった相手の気持ちは容易に想像できます。イライラはピークに達し、「この人には何を言っても伝わらない」と怒りと悲しみが心を埋め尽くすことでしょう。
そうして話がこじれていくにつれて、私は次のような考えをもつようになります。
「本当にオレだけがわるいのか? そっちにも落ち度はあるじゃないか!」
まさにありがちな展開ですが、これを「罪悪感」という言葉に置き換えると、
「自分だけ罪悪感を抱いているのはおかしい。そちらも罪の意識を感じるべきだ」
となるわけです。
結果として、私は相手の間違いをこと細かに探し出し、次からつぎへと指摘し始めます。いわゆる修羅場の始まりです。罵詈雑言が飛び交う中、収集がつかない最悪の事態へと一直線……。
では、もし相手から同じ指摘を受けたときに、罪悪感をいっさいもたずにそれを聞けたとしたら何が変わるでしょうか。
「そんなことが本当にできるの?」と言いたくなるほどあり得ないやり方だと思いますが、ぜひ、想像力をフルに働かせてイメージしてみてください。
「いままで言えなかったが、あなたのそういうところに私は傷ついてきた」と言われた自分はかなりとまどいますが、先ほどとは違って罪悪感をもっていません。
当然ですが、もっていない罪悪感を手放す必要はありません。つまり、「自分を正当化する」必要も、「相手に罪悪感をもたせる」必要もなくなるわけです。
おそらく、ずっとだまったまま、途中で話をさえぎることもなく、大切な相手の言い分を最後までじっくりと聞き届けられるでしょう。
そのあいだ、「どう言えば機嫌を直してもらえるだろうか?」など、小手先だけの対策をひねり出すこともありません。
そうして、相手がすべての言葉を吐き出し終えたと感じたとき、理由はどうあれ、相手が傷ついたという事実だけを受け入れて、「それは本当に申し訳なかった」と静かに謝るでしょう。
罪悪感をもたないことで生まれた強さがそれを可能にしてくれるからです。
おそらく、この文章を読んだだけでは完全に腑に落ちることはないでしょう。ぜひ、自分が何かの問題にさらされて、相手から真摯な指摘を受ける機会を得たときに、この「罪悪感をもたないコミュニケーション」を試してみてください。
心がけることは次の2点です。
・何を言われても絶対に罪悪感をもたないと決意する。
・この問題に関して、自分が何を修正すべきなのかをその場で真剣に考える。
場合によっては相手にも修正を求める必要があるかもしれません。その際も、いっさいの罪悪感をもたずに強い心でそのことを伝えます。
そして、このようなふだんはあり得ない「罪悪感のないコミュニケーション」がどんな形で決着するかを、ぜひリアルに体験してみてください。
Photo by Satoshi Otsuka.
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