「好き」と「依頼」がしあわせな役割を創る

最近、拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』を読まれた方から、次のような質問をいただきました。

「この本には、好きなこと、得意なことを仕事にするのがいいと書いてあります。一方で、いまいる場所で本気を出すや、依頼されたことを全力でやるといった、一見、矛盾する話もあります。これらをどのように解釈すればいいのでしょうか?」

好きなことや得意なことは、おそらく「自分のやりたいこと」です。これに対して、「いまいる場所」や「依頼されたこと」は、かなずしも好んでやりたいこととは限りません。たしかに不可解な話に思えます。

そこで今日は、なぜこの相反する2つの要素のミクスチャーによって「しあわせな役割」が見つかるのか、その謎に迫ってみようと思います。

最初に、ある実験をしてみようと思います。時間があれば、あなたも実際にトライしてみてください。

まず、ひとつの目的をもったあなただけのドリームチームを思い浮かべます。小規模なベンチャー企業でも、社内のプロジェクトでも、スポーツのチームでも、趣味の集まりでも、何でもかまいません。

ウェブサービスを立ち上げる、理想の新製品を開発する、草野球のチームを結成する、一週間程度のキャンプや登山に行くなど、ゴールが明確なチームです。仕事か遊びかは問いません。人数はあなたを含めて、5人前後がいいでしょう。

次に、あなたのまわりにいる知人や友人、仕事仲間などから、プロ野球のドラフト会議のような気分で、そのチームに加えたいメンバーを指名してください。ソーシャルメディアだけのつき合いで、会ったことがない人を加えるのもアリです。

紙やスマホのメモ帳などに、実際に彼らの名前を書いてみます。すべて出揃ったら、メンバー全員に、

「なぜこの人をチームに入れたかったのか?」

を付け加えてください。

キャンプの場合なら、

「Aさん:アウトドアーの活動に精通しているから」
「Bさん:料理がうまいから」
「Cさん:いるだけでみんなが明るくなるから」
「Dさん:ワゴン車をもっていて、山道の運転に慣れているから」

といった感じになるでしょう。

このリストには、「あなたから見た4人の役割」が記されています。きっとあなたは、かなり高い精度でそれぞれの個性や得意分野を見抜いているはずです。

ではここで視点を変えて、当の本人たちに「あなたはその役割にふさわしいと思うか?」と聞いたとらどう答えるかを想像してみましょう。

もしかしたら、意外とアウトドアー派のAさんが、「うーん、最近はめっきりやらなくなったからねぇ。どうだろうな?」とあやふやな返事をするかもしれません。

一度、自宅を訪れたときに、見事な食事を振る舞ってくれたBさんにいたっては、「私、本当は面倒くさくて料理は好きじゃないんです」と予想外の回答をするかもしれません。

あなたの見立てと、本人たちの見解が微妙に異なるケースがありえると思わないでしょうか。

これが、私たちと役割の不思議な関係です。実は、

「他の人のほうが、自分の個性や役割を熟知している可能性がある」

のです。

自分の役割を見つけるうえで、「好き」という感覚はとても大切です。なぜならば、それが私たちの個性に紐付いている可能性が高いからです。幼少のころから、外で走り回るのが好きな子どももいれば、部屋でひとり本を読み漁ることに夢中になる子もいます。

情熱を傾けるとか、猛烈に好きとかではなく、「それをしていると自然に落ち着く」「他のことよりは興味がある」と感じられるだけでも、他の人にはない何かをもっているはずです。

拙著で書いたように、私は、この「好き」という各人の違いこそ、自分の役割を探すための入り口や起点にふさわしいと考えています。

ただし、「好き」には数々の危うさがあるのも事実です。たとえば、バックナンバー「解像度を高く保てば仕事に飽きることはない」で書いた「飽きる」こともそのひとつです。

あるいは、「好き」な仕事であればあるほど、うまくいかないことが続くと、その真逆の「大嫌い!」という感情に突如として転換してしまうこともあります。

その感覚は、ある意味で、人を好きになるときの気持ちの動きに似ています。好きだからこそ、裏切られたときのショックは大きいし、少しでも醒めた感じがすると、もうそれほど思い入れがなくなったかのような錯覚さえ抱いてしまいます。

そのようなことが起こってもけっして道に迷わないために、「好き」という羅針盤を携えながら、もうひとつの頼りになる指針を自分の中に取り入れておくのです。

それが、

「他の人からの依頼」

です。

先の実験で、あなたは自分のドリームチームを編成しました。そこには「彼や彼女ならこの役割をキッチリはたしてくれるだろう」と思う人を加えたはずです。

これとまったく同じことが、あなたのまわりで日々、起こっていると捉えてみてください。

「あなたの元に来た依頼は、あなたの探していた役割である可能性が高い」

ということです。

もちろん中には、誰がやっても結果は同じといった、役割とは無関係の依頼もあるでしょう。個性や特性などまったく考えずに、雑に仕事を振る上司がいないとも限りません。

ただ、それを逐一、正確に見極めようとしてもキリがありません。それよりも、もっと簡単で確実な方法があります。

「自分に来た依頼は、それが何であれ、すべて本気でやってみる」

のです。

「案ずるより産むが易し」「百聞は一見にしかず」の言葉どおり、実際にやってみればあらゆることが判明します。もし依頼主の読みと、あなたの役割が一致していれば、かならず何らかの手応えを感じられるはずです。

それは「好き」とはまた別の感覚かもしれません。

「よくわからないけど、なぜかスラスラできてしまう」
「気がつくと、このことに集中している自分がいた」
「なぜか、改善点を次々と閃いてしまう」
「できあがったものを見ていると、わるい気はしない」

本気で取り組む中でこのようなことが起こったら、好むと好まざるとに関わらず、それがあなたの「しあわせな役割」である可能性は、かなり高いと思っていいでしょう。

これが拙著で書いた「いまいる場所で本気を出す」の真意です。

私たちは「自分の役割」や「自分の強み」を探そうとするとき、どうしてもこの世界から自分を切り離した状態にしがちです。それは、小さなカプセルにひとりで入り込んで、閉ざされた空間の中であれこれと思案しているような感じです。

これでは永遠に答えは見つかりません。なぜならば、

「あなたはいつでも、つながりの中で生きている」

からです。

「役割」とはすなわち、誰かの役に立つことにほかなりません。それは、無数の人たちとの関係において形作られるものであって、けっしてひとりでは完結しないのです。

自己診断もわるくありませんが、まずは小さなカプセルから飛び出して、自分を取り巻く人たちとの「つながり」をイメージしてください。

「依頼」もまた、あなたと他の人のあいだに存在する「つながり」のひとつです。「好き」や「得意」を自分の軸に据え、同時に「他の人から見たあなた」も受け入れながら、両者をうまい具合に混ぜ合わせてみてください。

最初は漠然としてつかみどころがないように感じるかもしれません。でも、既存のジャンルに分けることも、名称をつけることもできないその不思議な形こそが、あなたの役割なのだと思います。

※ 本日、鎌倉で開催の「第5回 グッドバイブス ご機嫌な生き方塾」で、この記事に関連する「自分の役割に気づく」ワークショップを行います。19時30分のスタートに間に合うようでしたら、ぜひご参加ください。当日の飛び込みも大歓迎です!