本気モードを発揮する3つのマインドセット

前話からの流れで、予告しておいた「本気モード」がもたらす2つの恩恵、「与えるすごさを実感できる」「強い引力を発するようになる」について書こうと思っていましたが、一夜明けたらすっかり気分が変わってしまいました(笑)。

そろそろ実践編に行きたい感じです。あえて言葉にしなくても、本気のメリットはやってみればかならずわかります。

そこで今日は、「どうすれば、やる気や体調に左右されずに、いつでも目の前のことを本気で行えるか?」の具体的な方法を探っていこうと思います。

まずはもう一度、「本気とはどういう状態か?」を確認しておきましょう。

「いまこの瞬間に、自分がもてる最大のエネルギーを対象に注ぎ込む!」

この文言が表すとおり、実際に行うことはとてもシンプルです。高いモチベーションも、燃えるようなやる気もまったく必要ありません。

ただ、

「いま、自分の人生には、これを実行すること以外に何の目的もない!」

と心から思えればいいだけです。

「いま、目の前のやること以外に、興味や関心を抱く対象はいっさいない!」

と言い換えることもできます。

「いやいや、何をやっていても、ほかに気になることはあるよ!」と思うかもしれません。もしそうだとしたら、残念ながら「最大のエネルギーを対象に注ぎ込む」ことは不可能です。

なぜならば、気にした分だけ、エネルギーは「気になる対象」に向かって放出されてしまうからです。

ここで重要なのは、

「なぜ私たちは、ひとつのことをやりながら、別のことを気にしてしまうのか?」

の理由を、しっかりと認識しておくことです。

あなたの中で、次の2つの思いが大きくなっていないかを確認してみてください。ひとつめはこれです。

① 気になる「そのこと」を実行する未来に「恐れや不安」を抱いていないか?

おそらくそれは、あなたにとって「できれば着手したくないこと」か、やり始めたとしても、結果やプロセスに不安を感じている事柄であるはずです。

しかも、あなたの人生に重大な影響を与えそうなことであればあるほど、「気になる」気持ちを静めるのは難しいと感じることでしょう。

ぜひここで、

「私たちが頭で創り出す不安に、大きいか小さいかの程度などない!」

という事実に気づいてください。

「気になること」のすべてはまだ起こっていない未来の想像です。それは、現実の世界にとってはイリュージョン、すなわち「無」ということを意味します。

ゼロに大きい小さいがないのと同じように、「無いもの」「現実に存在しないもの」に、重大か些細かなどの序列をつけることはできないのです。

この意味で、どれだけ深刻に思えることでも、すべての想像は、「わるいことをして、担任の先生に説教をくらう日」のドキドキ感と、本質的には何も変わりません。しかも、そのことについて「いま考える」メリットはどこにもないはずです。

ぜひ、これらのことを受け入れて、「気になること」をすべて手放してください。

続いて、2つめの「ほかのことが気になる理由」もかたづけておきましょう。

② 目の前で行っていることから、気を紛らわそうとしていないか?

これはおそらく、学生時代に身につけてしまった習慣だと私は予想します。「ながら勉強」という言葉を思い出してください。

よほどの勉強好きでないかぎり、あのはてしなく続く受験勉強を心から「楽しい!」と思っていた人はいないと思います。そこで私たちは、そのストレスフルな対象から逃れるために、ある防御策を発明しました。

それが、

「いまの嫌な行動を紛らわせるために、別の何かを五感に捉えさせておく」

という方法です。

私が若いころは、多くの人がラジオの『オールナイトニッポン』を聴きながら勉強していました。いまなら、スマホに入れた音楽やポッドキャストをBGMにするといったところでしょうか。YouTubeの番組を「再生しながら」かもしれません。

もちろん、大人になっても私たちはこの習慣をやめていません。ジョギングをしながら何かを聴く、テレビを見ながら読書をする、職場でもイヤホンが手放せないなど、相変わらずの「ながら○○」を続けているわけです。

では、ある日突然、それらすべての「ながら」を奪われてしまったとしたら、私たちはどう感じるでしょう。ぜひ、リアルにイメージしてみてください。

「やることの前にポツンと置かれて、それに向き合う以外に選択肢はない」

いう状態です。

おそらく、まるで「どこにも逃げ場のない勉強部屋」に閉じ込められたような気がして、かなり憂鬱になるでしょう。自分を安心させてくれていた、実際には「意味のない雑音」が消えたことで、「この静けさには耐えられない!」と感じる人もいるでしょう。

「目の前のことを本気で行う」と聞いて、あなたが真っ先に懸念するのは、この、

「嫌な行動に真正面から対峙して、それだけに集中しなければならない状態」

への恐怖ではないでしょうか。

もちろん、これもまた、私たちが自分で創り出した幻影にすぎません。実際には、「本気モード」がもたらしてくれる静寂は、私たちが想像するような孤独で冷たい闇ではなく、古都でみかける、きわめて洗練された茶室のように平穏なものです。

あらゆる緊張を緩めてくれながら、あなたが生まれながらに手にした創造力を、最高品質で発揮できる、究極の「安心空間」といってもいいでしょう。

ぜひ一度、「ながら○○」の習慣を卒業して、音楽を聴くイヤホンや、動画を流すタブレットを手放してみてください。ただし、ここで手放すのはBGMやBGVではありません。

「どうにかして目の前のやることから気を紛らわさなくては、ひどいめに遭う!」

というあなたのイリュージョンのほうです。

「別の何かを五感に捉えさせておく」というやり方に依存することがなくなれば、本気モードという「安心空間」に、音楽だろうと環境音だろうと自由に加えてかまいません。

ではまとめましょう。こと「本気」に関しては、ステップを多くすればするほど、実践から遠ざかっていくように思います。できるだけシンプルにするために、3つに絞り込んでみました。

順序どおりに行うのではなく、3つのことを同時に頭に入れておくという意味で、ABCとしておきます。

A:究極のシングルタスクを実行する!

もともと私たちにできるのはシングルタスクだけです。「人生は短いのだから」と欲ばって、同時に複数のことをやろうとしてもけっしてうまくはいきません。賢くてもそうでなくても、このことに変わりはないのです。

間違っても「睡眠学習」をやろうなどとは思わないでください(笑)。「ひとつ終えたら次、またひとつ終えたらその次」と、あえて愚鈍な亀のように一歩ずつ進んで行くのがポイントです。

B:いまやっていることの先に楽しみを作らない!

エネルギーを分散させないための注意点です。今話で書いた「いま、目の前のやること以外に、興味や関心を抱く対象はいっさいない!」という状態を、意識して創り出してください。

別の「気になること」が現れ始めるたびに、「それを考えたところで、何の意味もない!」と自分に言い聞かせて、頭の中から消し去っておきます。

C:ひとつひとつの行動に「色」をつけない!

バックナンバー「正直な愚者とそれを利用して効率を得る賢者」に登場したメソッドです。「ながら○○」で気を紛らわしたくなるのは、それを始める前からあなたが「嫌な行動」という判断をしたからです。

本当にそうなのかどうかは、ただやってみるだけでなく、「本気でやってみる」までわかりません。過去の印象もすべてイリュージョンです。

何かに着手する直前まで、誰からの依頼か、誰のためにやることか、公平に配分された仕事なのかなどの「色」を拭き取って、「純粋な行動」に戻してあげるクセをつけてください。

たとえば、すべての行うことを、

「となりに住む大嫌いな住人から、留守のあいだ面倒を見てくれと預かった子犬」

とイメージするのもひとつの手です。

飼い主は憎くても、子犬に罪はありません。同じように、目の前の行動や仕事自体には何の罪もないことを受け入れて、毎回、毎回、

行動の浄化

を行ってください。

この3点を忘れなければ、やる気や体調がどうであれ、着手したとたん、あなたの「本気モード」にスイッチが入るはずです。

最後に、いきなり一日のすべての行動を本気でやろうとするのは、あまりいいやり方とはいえません。この数日で書いてきたように、本気になることを拒みたくなる要因はいくらでもあるからです。

何よりも、この試みは成功体験を重ねることが大切です。そこで、まずは「休むこと」「寝ること」などの、実行のハードルが低くて、なおかつわるい印象をもっていない行動から始めるのがおすすめです。

実際にやってみればわかりますが、今話で書いたような習慣をもつ私たちにとって、「本気で休む!」というのはけっして簡単ではありません。数分もしないうちに、何かを気にしたり、片手間に何かをやりたくなったりするはずです。

そこをグッとこらえて、「究極のシングルタスクを実行する!」を思い出しながら、休むことに全エネルギーを注いでみてください。

それができたら、ふだんからそれなりに全力でやっていることや、あなたが好意をもっている人からの依頼など、「本気を出しやすそうなこと」にトライします。

そうして、本気モードからもらえる報酬を実際に味わいながら、少しずつ「これはキツそうだな」と思えるものに挑んでいってください。