本気でやるとなぜ好きなことが見つかるのか

今日は昨日の記事で書いた「本気を出す」について、もう少し補足しておこうと思います。とくに深掘りしたいのはやはり、

「本気でやると、仕事の中から自分の好きや得意が浮かび上がってくる」

という部分です。

拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』では、社長が忘年会で突然「鬼ごっこをやる!」と言い出した話をとおして、たとえくだらない鬼ごっこでも、テレビ番組の『逃走中』くらい本気でやれば、夢中になってしまうという例を挙げました。

これだけでも本気のすごさを感じてもらえると思うのですが、「仕事となるとなかなかその気になれないよ」という人のために、私の実体験をもとに「本気でやると、なぜ好きや得意が見つかるのか?」のメカニズムを明らかにしてみます。

まずはここからです。

① 本気を出すと時間の流れ方が変わる。

前話でも書いたように、本気で何かを行っているとき、私たちは「いまここ」にいます。そして「いまここ」はただ一瞬が連続するだけで、過去から未来といった「流れ」の概念がありません。

まるで、

「時間が止まっているような感覚」

と言ってもいいでしょう。ただし、それはあくまで自分の中だけの話で、外側の世界ではいつもと変わらず、猛スピードで時が過ぎています。

このとき、「自分時間」と「世界時間」に大きなズレが生じていると思ってください。「自分時間」ではまだ30分ほどしか経っていないように感じるのに、外の世界では3時間が経過しています。

その結果、私たちは、

「楽しい時間はあっという間に過ぎる」

という不思議な現象を体験するわけです。

② 自分の「意識」が覚醒して解像度が上がる。

バックナンバー「意識と思考の関係がわかればアイデアが閃く」で書いたように、ふだんの私たちは創造を司る「意識」を眠らせて「思考」ばかりを使っています。ところが、「本気モード」を発揮して「いまここ」にいることで、最強の「意識」が目を覚ましてくれます。

これによって、私たちの物事を認識する解像度がふだんの何倍にも高くなります。プロ野球のレジェンドたちがよく「ボールが止まって見えた」などと言いますが、まさにあの状態が起こるのです。

③ 「気持ちよくいる」ことを望むようになる。

ふだんの私たちは自分の外にある時間に合わせて行動しているので、「他人時間」の中で生きていると言えます。ところが、①によって外の世界とは流れが異なる「自分時間」にいられるようになります。

「他人時間」は私たちにとって「他人の家」と感じる時間です。それは、ホテルや旅館、友人の家に宿泊しているような感覚です。これに対して「自分時間」はまるで「自分の部屋」や「マイホーム」にいると思える時間です。

ではここで、あなたが「他人の家」にいるときと、「自分の部屋」にいるときの違いをイメージしてください。

「他人の家」に泊めてもらったときに、家具の配置や壁の色などが気になったとしても、それをどうにかしようとは思わないでしょう。反対に「自分の部屋」の場合なら、たいていの人は気になる部分を改善せずにはおれないはずです。

両者の違いはもちろん、

「所有感」

にあります。

同じことが「他人時間」と「自分時間」でも起こると考えてください。「自分時間」で行うすべてのことに、私たちは「所有感」を抱きます。自分自身の行動や目に映るさまざまな事柄など、あらゆる事象を「自分のもの」と感じるようになるということです。

そして家の場合と同じように、私たちは「自分のもの」はよりよくしようと努力します。つまり、

「所有感のある自分時間にいるとき、私たちはあらゆることを気持ちよくしたいと願うようになる」

ということです。

これに②の「高解像度」が加わるとどうなるかを想像してみてください。まるでハウスキーピングのプロのように、チリひとつ見逃すことなく、細部にわたって「自分時間」で行うことをチェックするようになるでしょう。

こうして、できる限りの修正や改善を繰り返しながら、私たちは「自分時間」の中に「気持ちいい」瞬間を創造し続けます。気がつけばいつのまにか、

「あ、なんか楽しいかも?」

と感じる世界に誘われているのです。

④ 自分は何にこだわりたいのかがわかってくる。

「本気モード」を発動するたびにこのような変化を体験することで、私たちは次第に「自分はどういうところにこだわっていて、何をよりよくすると気持ちよくなるのか?」を知るようになります。

それはある種の美しさかもしれません。「とにかくスピード感が大切だね!」「いや、ゆっくりでいいからていねいさだよ!」「何よりもリズム感でしょ?」など、人によってそのポイントは千差万別です。

この「気持ちよくするためのこだわりどころ」が、そのまま私たちにとっての、

「好き」

になります。

ここで見逃してはならないのは、どこに自分のこだわりがあるかは「本気でやってみるまでわからない」という点です。それはすなわち、これまでのプロセスには、想像もしなかった未知の「好き」が見つかる可能性があるということです。

またおもしろいことに、私たちは自分の苦手な分野をどうにかしようとは思いません。そこにどれだけ手を入れても、たいして気持ちよくならないことを熟知しているからです。

無意識のうちに、コストパフォーマンスの高い部分を見つける能力をもっているといってもいいでしょう。つまり、私たちがこだわるポイントは自動的に、

「得意な分野」

に絞られるということです。

以上が、私の体験から紐解いた「本気でやると、仕事の中から自分の好きや得意が浮かび上がってくる」仕組みです。

最後に、

「探すことと、知ることとどちらが簡単か?」

について考えてみてください。

私たちは人生の多くの時間を費やして自分の好きなこと、得意なことを「探そう」とします。そして、一部の幸運な人をのぞいて、それは長くて果てしない旅になります。

一方で、今話で書いたように「本気モード」を発揮するだけで、私たちは自分自身について多くを「知る」ことができます。それも、かなりリアルにです。

どちらを選ぶかは自由ですが、やはり私は拙著で書いたように「だまされたと思って本気でやってみてください」と言わずにはおれません(笑)。