イリュージョンから抜け出すためのメソッド

このブログの開設一周年にあたる11月15日からずっと、私は「イリュージョン」というテーマで記事を書き続けています。

なぜならば、この「幻影」こそが、私たちを「平安な心」や「完全無欠のしあわせ」から遠ざけている張本人だからです。それは、拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』の裏テーマのようなものです。

グッドバイブスな存在として生まれた私たちは、成長していく過程で、望ましくないと思える出来事に遭遇するたびに、さまざまなイリュージョンを創り出していきます。

すべては、

「自分の身を守る」

という切羽詰まった目的のためです。

イソップ物語の『すっぱい葡萄』に登場するキツネが、木に実った葡萄を取ることに失敗したとき、「この葡萄はすっぱくてまずいに違いない」と、自分なりの現実を創り出すことで悔しさを紛らわしたように、たしかにこの方法には一定の効果はあります。

けれども、それを繰り返していれば、いつしか「すっぱい果物」ばかりに囲まれた世界に住むことになるのも事実です。

この、「イリュージョン作戦」のとんでもない副作用によって私たちは、

「自分のまわりは嫌な人ばかりで溢れている」
「とても自分に価値があると思えない」
「こんなに不確かな世の中では、自分の将来が不安でしかたない」

といった、けっして解決することのない悩みを抱えているのです。

ただ幸運なことに、あらゆるイリュージョンは、生まれたばかりの私たちには無用の長物でした。なぜそうだったのか、どうして現在はそうでなくなったのかの、原因や理由さえ突き止めてしまえば、やっかいな霧は晴れていくと私は考えます。

これからも、手を緩めることなく、私たちが見ているさまざまなイリュージョンの正体を疑っていこうと思っていますが、たまには趣向を変えましょう。考察も必要ですが、やはり実践なくしては机上の空論で終わってしまいます。

というわけで今日は、「イリュージョンから抜け出す姿勢の作り方」について書いてみようと思います。

あらゆるイリュージョンは空想や妄想、すなわち「考えること」によって生まれます。つまり、これから見ていくことは、

「考えにはまっている自分から抜け出す方法」

といってもいいでしょう。

私はずいぶんと長いことこれを実践していますが、その効果は想像以上に広範囲に及びます。身体はもちろん、心にもいい影響を与えるだけでなく、人間関係の改善や、判断力の向上にも役立っているように思います。

なんというか、グッドバイブス流のフィットネスのような感じで、習慣づけるのがおすすめです。

まずは準備編です。今日一日をフルに使って自分をじっくり観察しながら、あなたに「2つのモード」があることを確認してください。それは、

A:自分の殻に閉じこもっているように感じるモード(内向きモード)
B:外の世界から何かを知覚しているように感じるモード(外向きモード)

見分け方は簡単です。あなたが「内向きモード」になっているときは、基本的に五感が閉じています。見たり聞いたり、感じたりしていないということです。

たとえば、「長いこと連れ添った家族と一緒にいるとき」をイメージしてください。あなたは、出勤前の朝食のテーブルに着いています。

もしこのとき、奥さんや旦那さんの話す言葉が頭に入っていないとしたら、あなたは間違いなく「内向きモード」にいます。いわゆる「聞き流している」状態です。

あるいは、駅までの道を歩いたあと、電車に乗る前に「今日、自分はここまで歩きながら何を目にしたか?」を思い出してください。

おそらく、自転車が急に飛び出してくるなどの、特別なことでも起こらない限り、あなたは何を見たかをまったく覚えていないでしょう。五感が閉じているという意味で、これもまた「内向きモード」にいたことを証明しています。

この、

「目覚めているのに、たしかに何も見ていない、何も聞いていない時間がある」

という事実を自覚することが、このメソッドの最初の一歩です。

すでに気づいていると思いますが、これがあなたの「考えている時間」であり、何らかのイリュージョンを創り出している時間でもあります。

反対に、自分の外側から「どうしても対応せざるを得ない刺激」を受けたとき、私たちは「外向きモード」に変わります。

上司がただならぬ雰囲気を醸し出しながら、「おい○○さん! すぐに来てくれ!」と自分の名前を呼んだとき、あなたの管理するシステムにかなりヤバめの不具合が起きたとき、一瞬にして、いわゆる「目が覚めた!」感じになるはずです。

先の朝食の例でいえば、BGMのように鳴っていた同居人の声が、突如として「ねえ、ちゃんと聞いているの!?」という怒号に変わったときも同様です。

あなたは少し焦りながら、「はいはい、聞いているよ!」と姿勢を正して、相手の話に集中しようとするでしょう。

このとき、私たちの五感はフル稼働して、外からの情報にフォーカスし始めます。これが「外向きモード」であり、

「考えから抜け出した状態かつ、イリュージョンを創っていない状態」

ということです。

タイマーなどで厳密に計測する必要はありませんが、ぜひ、一日のうち「内向きモード」と「外向きモード」のどちらに長くいるかを見極めてください。

人によって違いはあると思いますが、おそらく、圧倒的に「内向きモード」にいる時間のほうが多いはずです。

これまでの話でわかるように、五感が閉じている「内向きモード」は、

「目覚めていながら白昼夢を見ている」

のと同じです。

それはほかでもない、あなたが、

「現実の世界ではなく、自分の考えを眺めている」

ことを意味します。まさに、起きているのに夢を見ている状態です。

先に書いた「イリュージョンから抜け出す姿勢」とは、この逆にいることを指します。要は、目を覚ませばいいのです。

ここからは実践編です。準備編で自分を観察することによって、次のことができるようになっているはずです。

① 自分が「内向きモード」にいることに気づく。

自分という小さなカプセルに閉じこもるような感じで、実は何も見ていない、聞いていない状態になっていたら、「あ、いま内向きモードだ!」と認識する習慣をつけてください。

ただ、このときあなたは白昼夢の中にいます。最初のうちはなかなか自覚できずに、そのまま「見ざる聞かざる」を続けてしまうかもしれません。かなり警戒しながら、意識的に自分を見張っておくのがポイントです。

「内向きモード」にいると気づいたら、即座に次のことを行います。

② 目を閉じて深く息を吸い込む。

もうこれ以上は吸えないところまでいったら、

③ 「内向きモード」で考えていたことを、息とともにすべて吐き出す。

「考えを吐き出す」というのはあくまでイメージです。考えが自分の外に出て行く様子を想像しながら、ゆっくりと息を吐き終えたら、

④ カッと目を見開いて、視界に飛び込んだものすべてを凝視する。

見慣れたものであっても「これは何だ?」と、初めて目にするような気持ちで、神経を研ぎ澄ましながら見据えます。

そのまま顔を上げて周囲を見渡し、視界に入ったものをとにかく見つめてください。さらに続けます。

⑤ 音、空気の流れ、匂い、温度など、あらゆるものを五感で捕らえる。

もし何かの音がしていたら聞くことに集中してください。風が吹いていたら肌でその感触を味わいます。その他、五感で知覚したものをすべて全身で感じるようにします。

最後の仕上げです。

⑥ 「自分はたしかに、この世界の中にいる!」ことを確認する。

五感をフル回転させているうちに、自分がいたのは白昼夢の小さなカプセルではなく、この広い世界の中だったことに気づけるはずです。

そのまま、この世界と自分がつながっている様子をイメージします。うまくいけば、世界の中に自分が溶けていくように感じることもあります。

これで「イリュージョンから抜け出す姿勢」のできあがりです!

これを意識的に繰り返していれば、イリュージョンの生産工場である「内向きモード」よりも、グッドバイブスに導かれる「外向きモード」の時間が増えていくでしょう。

とくに、「自分は最近、人の話をろくに聞いていないなぁ」と感じている人にはおすすめです。これだけで、身近な人との関係は大幅に改善されます。

実際にやってみるとわかりますが、このメソッドは何かに似ています。もうたしかな記憶はないので断言はできませんが、たぶん、この世に生まれた瞬間、もしくは初めて五感が使えるようになったときに、私たちが体験したことと同じではないでしょうか。

「何だこれは?」と驚きながら目を開ける。擬似的にですが、毎秒、毎分、新たに生まれてグッドバイブスに戻るためのメソッドと私は捉えています。