相手の怒りを放置すれば真の平安は訪れない

拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』では「グッドバイブス」を、

「いい感じの思いを乗せた波」

と定義しています。

さらに「いい感じ」とは、けっしてポジティブさやモチベーションの高い状態ではなく、「恐れや不安」のない、

「平安な心」

を指します。

今日は原点に帰って、この「平安な心」が何を意味するのか、なぜ私たちに「平安な心」が必要なのかについて考えてみようと思います。

バックナンバー「グッドバイブスが生まれた経緯について」で書いたように、拙著のゴールは「完全無欠のしあわせ」を得ることです。そして、その具体的な方法として私がたどり着いたのが「平安な心」でした。

「え? それだけでいいの? お金や地位や名声は必要ないの? 人生のパートナーは? やり甲斐のある仕事とか、人生の目標はなくていいの? 勝つことは? 成功することは?」と感じる人も少なくないでしょう。

たしかに、「完全無欠のしあわせ」を得る方法が「平安な心」では、どこか不十分というか、もの足りない印象があるようにも思えます。では、次のことを想像してみてください。

「あなたが勝ちや成功を達成し尽くして、自分の望むすべてを手に入れたとき、それでもまだ心の中に将来の不安や、身のまわりにいる人への恐怖が残っていたとしたら、あなたは完全にしあわせと言えるだろうか?」

お金や地位や名声は十分にゲットしたにも関わらず、それを失うかもしれない将来に不安を抱えていたり、自分の家族や仕事仲間に不信感をもっていたりしても、あなたはしあわせを感じられるかということです。

おそらく答えは「NO!」であるはずです。実際に私のパーソナルセッションには、すでに周囲が羨むほどの成功を収めた人が、「それでも不安でたまらない」という悩みを相談しに来ます。

私もそれなりに周囲の評価を得て、贅沢な暮らしもできる境遇にいたことがありますが、不思議なことに、その時期が人生でもっとも不幸だったと思っています。

そのように感じる理由はとても明確です。なぜならば私たちは、

「自分の外側にあるものだけでは、けっしてしあわせになれない」

からです。

では、自分の内側に何があればいいのか。その答えが「平安な心」なのです。

拙著やこのブログではその具体的な方法として、「意味づけ」や「未来の妄想」を手放すこと、「いまここ」にいることなどを書いてきました。

実際にこれらを実践することで、自分の中の「恐れや不安」を解消することができます。ただし、その目的をいわゆるアンガーマネージメントやポジティブシンキングのように、

「自分だけの心を整える方法」

と捉えたとしたら、本当の意味での「平安な心」は得られません。

その理由も拙著で書いたとおり、

「私たちはけっしてひとりではしあわせになれない」

からです。

たとえば、家族の誰かがあなたに激しい怒りをぶつけてきたとします。あなたはその辛辣な言葉に「意味づけ」をしないことで、それなりに冷静な自分を保てるでしょう。たしかに、相手の攻撃に攻撃で応戦しないよう自分自身をコントロールできています。

ではこれだけで、家庭におけるあなたの「平安な心」は保てたと言えるでしょうか。おそらく、その翌日か翌々日には、同じ家族が同じような内容であなたの言動に文句を言い始めるはずです。なぜならば、その家族の怒りはまったく解消されていないからです。

ぜひ拙著が、ある意味で即効性もなく、あまり実践的でもない、「ひとつ意識」の話から始まることを思い出してください。「ひとつ意識」とは自他の区別のない意識です。

それはすなわち、

「他人の利害を、自分の利害と感じられる意識」

でもあるのです。

もし、怒っている相手を置き去りにして、自分だけは平安でいようと考えるなら、あなたは相手を自分から「分離」させたことになります。まさに、「触らぬ神に祟りなし」や「臭いものには蓋をする」的な、分離や分断の発想です。

けれども、職場であっても家庭であっても友人関係であっても、その相手がこの世界から消えてなくなることはありません。どれだけあなたが心理的な距離を置いたとしても、彼や彼女は繰り返し、繰り返し、あなたの人生に登場することになるはずです。

やはり、あなたが真の「平安な心」を得るためには、相手が怒りをもったまま平安でない状態を、自分のこととして感じられる「ひとつ意識」が不可欠なのです。

冒頭に書いたように「グッドバイブス」とは「波」です。共鳴や共振を起こす波は、他の人に伝播させることができます。

最初の一歩として、まずは自分自身の「恐れや不安」を手放すことで、あなたが「平安な心」を手に入れてください。次に、相手の言動によってその平安を乱されないように、「揺れない心」を身につけてください。

いよいよここからが最後の仕上げです。その揺るぎない「グッドバイブス」を、あなたの人生に登場するすべての人に伝播させるのです。

どんなときでも、やるべきことはひとつしかありません。

「あなたに怒りや不機嫌さなど、おかしな言動をぶつける人の原因を取り除く」

ことです。

けっして、相手を変えるわけではありません。望ましくない言動の原因、すなわち「恐れや不安」を見つけて解消するだけです。相手を不幸のままに放置するのではなく、すでにあなたがいる「しあわせの国」に誘うといってもいいでしょう。

これが、

「与える」

ということであり、あなたが「平安な心」でいることの最大の意義でもあります。

ふつうに考えれば、相手はこちらがムカついたり反撃したりしても許されるくらい、おかしな言動をしています。そんな人を恐怖から救い出すなど、とてつもなく理不尽な選択に思えるでしょう。それを可能にするのが「平安な心」なのです。

「コイツはバカだ」「コイツはわかっていない」「コイツは面倒くさい」と思ったとしたら、あなたと相手は分離しています。たちまちあなたは拙著のメソッドを「自分だけのため」に使いたくなるでしょう。

その瞬間にあなたは、せっかく手に入れた平安を失うと考えてください。

もしかしたらここまでの話を読んで、「献身」や「自己犠牲」といったあまり好ましくないことを求められているようなイメージをもったかもしれません。

それこそが、

「相手が得をするだけで、自分は絶対に損をする」

という「バラバラ意識」の発想です。

けっしてこの世界はそのようにはできていません。あなたがそう意志すれば、自他の利害はかならず一致します。

さらに「グッドバイブスの伝播」は、相手に強要するのではなく、

「この仕組みに気づいた人が率先して行う取り組み」

であることも忘れないでください。他人がどうあれ、わかってしまったあなたがやるしかないのです(笑)。

大きな組織などでこれを完璧に実行するのは簡単ではないかもしれません。けれども、もしあなたが「最近、どうも家族がギスギスしていて居心地がわるい」と感じているなら、まずは家庭で実践してみてください。

予想するよりも時間がかかることはあるでしょう。でも、あなたが「平安な心」でいると同時に、「けっしてひとりではしあわせになれない」という重大な事実を忘れない限り、この試みに失敗はないと私は確信しています。

Photo by Satoshi Otsuka.