拙著『グッドバイブス ご機嫌な仕事』やこのブログに頻繁に登場する「意味づけ」とは、出来事や他人の言動について、
「本当はそうでない可能性があるにもかかわらず、そうであると自分で勝手に結論づけること」
です。
私たちはこれを頭の中で行い、自分で出した結論をあたかも現実であるかのように思い込みます。そうしてできあがった「幻想」によって、私たちは悩みや怒り、不機嫌さなどの望ましくない思いを抱くようになるわけです。
なぜ「幻想」なのかの理由は言うまでもありません。「本当はそうでない可能性」があるならば、それはけっして現実とは言えないからです。
もっとも重要なのは、不快な感情を抱いたとき、即座に「いま、自分はこの出来事や言動にどんな意味をつけたか?」を見極める習慣をつけることです。
そこで今日は、「意味づけ」を手放すトレーニングのうちのひとつ、「相手の悩みを聞きながら意味づけを探す練習」を紹介したいと思います。
まず、友人や家族などの親しい間柄で、悩みを抱えている人を見つけてください。すぐに見あたらないようなら、なるべく自然な形で「いま悩んでいることはないの?」などと質問してみるのもいいでしょう。
ほとんどの人は大なり小なり、なんらかの悩みをもっているはずです。おそらく、すぐに困っていることなどの告白が始まるはずです。ほんとうは、悩み自体を解決してあげたいとこですが、この練習の目的はそこではありません。
ぜひ、次のことだけを考えて相手の話を聞いてください。
「この人の話の中にいくつの意味づけが登場するか?」
冒頭に書いた定義が「意味づけ」を発見するヒントです。次のように言い換えると見つけやすくなります。
「この人の話の中で、本当はそうでない可能性があるにもかかわらず、この人がそうであると勝手に結論づけていることは何か?」
たとえば、悩みの内容が「会社の方針が自分に合わない。そろそろ辞めたいと思うけど、経済的なことを考えるとそうもいかない」だったとします。
この練習に慣れてくると、たったこれだけの告白の中に、最低でも3つの「意味づけ」が含まれていることが瞬時にわかるようになります。
まずは「会社の方針」です。すかさず、相手に「それはどんな方針なの?」と質問してください。
「品質よりも納期を重視する」「短期の目標に追われて、長期的な展望が見えない」「行き当たりばったりで戦略に一貫性がない」など、その人が感じた「自分に合わない会社の方針像」が語られるはずです。
それを聞いたあなたは心の中で、「本当はそうでない可能性がある?」と自問してみます。相手がどれだけ熱く主張したとしても、あなたは「たぶん、そうでない可能性があるな」と感じるはずです。これで「意味づけ」をひとつ発見です。
次に「自分に合わない」の部分です。同じように「どう合わないの?」と聞いてみてください。相手は自分のポリシーや美意識、哲学、モットーなどを挙げてくるでしょう。間髪おかずに「本当はそうでない可能性がある?」と自問します。
バックナンバー「なぜ私たちは自分のことをよく知らないのか」で書いたように、そもそも、私たちは「自分とはどういう存在か?」について何もわかっていません。にも関わらず、自分のポリシーや哲学はこうだと決めつけているとしたら、それは間違いなく「意味づけ」です。
3つめは「経済的なことを考えるとそうもいかない」の部分です。理由をたずねれば、「いま自分が転職することの難しさ」について話してくれるでしょう。こちらは、「本当はそうでない可能性がある?」と自問するまでもなく、「ああ、これは意味づけだなぁ」とすぐにわかるはずです。
以上が、「相手の悩みを聞きながら意味づけを探す練習」です。すでに結論を出してしまっている自分の「意味づけ」は見つけにくくても、他人のやっていることは本当によくわかります。
この練習を繰り返すことで、次第に自分の「意味づけ」にも敏感になれるのです。
あなたがとてもいい人で、やはり練習台にするだけでなく、相手の悩みを解決したいと思うなら、まず自分の「意味づけ」を手放し、それによってどんな可能性が見えたかを自身で味わってください。
先の例でいえば、「会社の方針」と「自分との相性」という2つの幻想の間に生じる永遠に解決しない矛盾、加えて「転職は危険だ」という幻想による恐怖、これら3つの「意味づけ」をひとつずつ手放していけば、この人の選択肢は何十倍、何百倍にも増えます。
そのようなことを実践したあなたの体験談は、そのまま最良のアドバイスになるはずです。
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